はるけき きみに  ー 彼方より -
丹波の顛末
 八重の屋敷の周りをうろつく男が多くなった。
 乞食のようにボロ布をまとった者、侍崩れのような者、行商人の恰好だが目が異様に鋭い者。
 考えられるのはやはり鹿島の影だ。

 ある日、買い物に出た八重が男に声をかけられた。

「お前の家に若い娘がいるだろう、そのことで聞きたいことがあるのだ」
「えっ」

 男は腕をつかみ路地裏へ連れて行こうとする。

「や、やめてください、いったいなにを」

 その声で向こうの店の戸が開いた。
 顔をのぞかせた(あるじ)に、

「助けてください、この人が無体なことを」

 男が八重の口をふさぐ。
 だが他にも次々と人が出てきた。

 チッと舌打ちをして走り去った。
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