クールなエリートSPは極悪か溺甘か ~買われた新妻は偽りの旦那様の執愛から逃れられない~



それから数日後のことだった。終業後、私は父に呼ばれ実家を訪れていた。
母も揃っていて、2人とも神妙な面持ちでソファに座っている。

「お父さん、話ってなに?」

ピリリとした空気に耐えきれずに私が口を開くと、父は意を決したように嘆息した。
それから、予想外のことを口にする。

「凜に、見合いの話が来ている」
「お見合い?」
「そうだ。婚約破棄したばかりのお前には酷だと思う。…だが、会うだけ会ってみないか? 悪い話ではないんだ」

悪い話ではない。文月家にとって利になるということ。
両親は、縁談に1度失敗したのを申し訳ないと思っているのだろう。そこにもう一度来たチャンス。文月の社長として易々と手放すわけにはいかない。

元より家のための婚約で水谷真司に情があったわけでもない。
文月家のためになるなら。文月で働いてくれる社員とその家族を守ることに繋がるなら。その手段として令嬢の私にできることは、政略結婚を受け入れることだけだ。

「会って、みようかな」
「本当か! 相手は警視庁警備部警護課に務める青年だよ。警察一家の名家に生まれたご長子で、とても優秀だそうだ」

父が顔をほころばせ興奮気味に話す。
てっきりまたどこかの企業の御曹司かと思っていたから、警察官と聞いて驚いた。

「そんな方がどうしてうちと…」
「実は、その青年の祖父君と親父が同級生だったらしい。ほら、凜のじいちゃんが昔警察学校に通っていたのは知っているだろう?」

私は頷く。なるほど。そういう繋がりがあったのね。祖父は学生時代、警察官を志して学校に通っていたと聞いたことがある。文月の跡継ぎ問題でやむなく退職し、それからは経営者一筋で生きていた。二年前に亡くなった祖父の人脈がここに来て絡んでくるとは思わなかった。

「歳はおまえの6つ上で32歳だそうだが、写真を見た限り大層男前だった。確か名前が…すまん。思い出せそうにない。何せ急な話だったもんでな」

ぽりぽりと頭を掻きながらバツが悪そうにする父に苦笑する。
その写真を持って帰るどころか名前も覚えていないなんて…。
それだけ急で、水谷製薬の穴を埋めるためにも喉から手が出るほど欲しい良縁なのだろう。

「凜、」

すると、それまで黙っていた母が静かに言った。

「嫌なら断ってもいいのよ?」
「母さん! 何故そんな、凜もせっかく乗り気になってくれたところじゃないか」
「この子は優しいから、うちのためになるなら気乗りしなくても言わないわ。お父さんも分かっていて話を進めているんじゃありませんか」
「それは…」

母は、文月家の長女ではなく娘として私を案じてくれているのだ。
言い当てられて何も言えない父の代わりに、私は精一杯の余裕を持って微笑んだ。

「大丈夫よ、お母さん。真司さんとのことは、正直そこまで堪えていないの。強いて言うなら、文月を苦しめてくれた彼に制裁が下ればそれでいいわ」
「凜…あなたって子は…」

母が涙ぐんで私を見つめるので慌てる。

「もう、そんな顔しないでよ。 それより、お見合いの話、正式に決まるまで晃太(こうた)には言わない方が良さそうね」
「ええ、そうね。あの子には折を見て私から伝えるわ」

晃太は私の弟だ。中学生で思春期真っ只中の弟との関係にしては良好すぎるくらいで、少々手を焼くところもある。
水谷真司との婚約の話が上がった時の晃太は姉を奪られると思ったのか酷く落ち込み、しばらく部屋にこもってしまった。

可愛いといえば可愛いのだが、姉としては心配になる。晃太の学校生活を詳しくは知らないが、ちゃんと友達とか恋人とかいるのかな、なんて。

とにかく、お見合いをして正式にその先の話が決まってから報告するのがいいだろう。
過程にある家同士のややこしい絡みなんかは、晃太はまだ知らなくていい。

両親と弟。家族仲はいい。だからこそ、今度こそ失敗したくない。家族に心配をかけないためにも、私はこの縁談をどうしても成功させなければいけないと、密かに拳を握った。


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