クールなエリートSPは極悪か溺甘か ~買われた新妻は偽りの旦那様の執愛から逃れられない~



それから一週間後にお見合いの席が設けられた。場所は相手方の指定で、政治家や芸能人がお忍びで使うことも多いと言われる格式高い老舗の料亭。

こうも展開が早いのは、父も焦っているからだろう。
文月のために縁談を進めると意気込んだはいいものの、これといった作戦を考える時間はなかった。
会ってみて私に問題があると思われてしまえば断られる可能性だってあるのに。

今朝、母が浮かべる笑顔はやはり無理をしているようにも見えた。
早く家族を安心させてあげたい。その一心で、鏡に映る着飾った自分を見つめた。

綺麗めのドレスに、プロの手で化粧を施されると雰囲気が変わるものだ。

しばらくすると中居さんの案内でお相手の待つ部屋へ向かう。

背筋を伸ばし、表情は柔らかく穏やかな声音で。
とにかく相手方に好印象を持ってもらわないと始まらない。

部屋の前で深呼吸して、襖が開くのと同時に顔を上げる。

立ち上がってこちらを見る男性の顔を認識した瞬間、私は目を見開いた。

だって、そこにいたのは―――

「こんにちは、文月凜さん。来てくださってありがとうございます。お会いできて嬉しいです」

きりりとした表情のまま、柔らかな声音で型通りの挨拶をしたのは、他でもない、大慈瑛輔その人だ。

「大慈…さん…?」

高身長の逞しい体躯を上品にスーツに収めたその姿を見紛うはずもない。
端正な顔立ちに彼が纏う圧倒的な強者オーラは、1度その腕に守られたら忘れられないだろう。

どうして彼がここに?
今日のお見合いの相手がまさか大慈さんだったなんて…

2週間前、元婚約者に連れ去られそうになっていたのを助けてもらった時のことが脳裏を巡る。

「2人とも、もう会っていたのか?」

彼から目を離せなくて止まっていた時間は、大慈さんの横にいた白髪の男性によって再び動き出す。
恐らく祖父の同級生で、大慈さんの御祖父様だろう。
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