クールなエリートSPは極悪か溺甘か ~買われた新妻は偽りの旦那様の執愛から逃れられない~
「…ええ。実は――」
「その節は、ありがとうございました。おかげさまで接待にも間に合いました」

ここであの話は困る。父には真司さんが接触してきたことは伏せているのだ。
話を合わせてほしいという意味を込めてにこっと微笑み大慈さんを見つめる。

少し強引すぎたかしら、と内心ドキドキしていたら、彼はふっと目を細め緩く口角を上げた。

「それは良かった。 あれから連絡もないので心配していたんですよ」

ちょっと…!分かってくれたと思ったのに!

「凜、何のことだ。何かあったのか?」
「す、少し前に一刻堂へお茶菓子を買いに行ったでしょう。その時にちょっと、ね」

父が心配げに声を潜めるので、私はさらに小声で返す。
大慈瑛輔。たしかに彼はあの時助けてくれた人だけど、どうにもキャラが…何かが違う。

能面にわざとらしく笑顔を貼り付けたみたいな、なんとも言えない違和感。
ここが見合いという弁えた場であることを除いても、彼の振る舞いや口調には引っかかるものがあるのだ。

さっきだって、明らかにこちらの意図を察した上でわざと父の不安を煽るような発言をしたとしか思えない。

「これも何かの縁かもしれんな。それじゃあ堅苦しいのはやめにして、文月さん、お嬢さん、どうぞ座ってください」

御祖父様に促され、私と父は席に着く。
思わぬ再会に加えて以前とは違う彼の雰囲気に動揺を隠せぬまま、お見合いは始まった。

食事が運ばれてきてからは父と大慈さんの御祖父様は仕事や亡き祖父の話で盛り上がっている。

放置された私は向かいに座る大慈さんから送られる視線に耐えかねて食事の手を止めた。

「…召し上がらないんですか?」

柔らかな笑みを湛えているつもりだが、どうにも居心地が悪くて引きつっているかもしれない。

「いえ、頂きます」

短くそう告げたが、大慈さんは箸を手に取りつつ私を射抜くような眼光を緩めない。

「あの、私の顔に何か?」
「…ああ、すみません。 以前お会いした時と印象が違うものですから、つい。不躾でした」
「え、ええ。専門の方にヘアメイクをして頂いたので、そのおかげかと…」
「そうですか」

素っ気なさすぎじゃない!?
何よこの人、意味深な視線を送っておいてそれだけって。
父に話を振られたらほんの僅かに綻ばす表情筋も、私と話している時は固まってるし!
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