クールなエリートSPは極悪か溺甘か ~買われた新妻は偽りの旦那様の執愛から逃れられない~
翌日、出勤すると同期の佐々木がやって来て険しげな顔をした。
「文月、俺、見っちゃったんだけど。あの高身長イケメンは誰なんだよ!?」
昨日会社の前で待ち合わせたのだから、社員に見られるだろうなとは思っていた。まさか佐々木に言われるとは。
小声ではあるが興奮気味の彼に私は苦笑して答える。
「実は私、彼と結婚するの」
「は!? 文月、この前婚約破棄したばっかじゃん!」
「そうなんだけど…いろいろあって。でも大丈夫よ。彼は警察官なの。真面目でストイックな人だし、真司さんみたいに見境なく愛人を作るようなことはしない。彼となら上手くやれると思う」
佐々木も私を心配してくれていたから、今度は失敗しないってちゃんと分かってもらいたい。
「ほんとか…? まさかこんなにすぐ次が決まるとは思わなかったわ…。こんなことなら俺ももっと早く文月に…」
「え、?」
「いや、なんでも。 でも結婚したら、同期会もあんまりできなくなるよな」
「そんなことないよ。真紀(まき)も誘って、また集まろう。私の結婚祝い、してくれてもいいのよ?」
「はは。考えとく〜」
佐々木は明るく笑って、手に持っていたファイルで私を小突く。
谷崎真紀は佐々木と3人で仲の良い同期だ。
彼女にも、結婚の報告をしたい。
「とりあえず、おめでとうって言っとく。今度、旦那に会わせてよ」
「聞いておくわ」
言っておきながら、正直瑛輔を佐々木に会わせるのは心配だ。
佐々木は明るく友達が多いタイプで一見それだけに見えるけど、案外鋭いところがあるのだ。
私たちが上辺の関係であることがバレたらまた心配をかけてしまう。
「あ、さっき社長から聞いたんだけど、今夜の会食の会場に変更があったらしい。メール送ってあるから、確認しといて」
「分かった。ありがとう」
そうして私たちは仕事に戻った。
結婚して多くの人の前に出るまでに、瑛輔との良い距離感を見つけなきゃ。
瑛輔と一緒に見に行った家具や家電、お互いの荷物の搬入が終わり引っ越したのは、入籍予定の日の前日。
暦の上では春がスタートした。
今日からいよいよ、瑛輔と同居だ。
私は寝室の真ん中に鎮座する大きなベッドを見つめて嘆息した。
やっぱり変だ。偽装夫婦がひとつ屋根の下、一緒に寝るなんて。
「凜、食器類はここにまとめてしまうでいいか」
リビングの方から瑛輔が声を張上げている。
「今行くー」
私も聞こえるように返事をして顔を出すと、瑛輔がテキパキと荷解きをしていた。
キッチンは背が高く頑丈な体つきの瑛輔が立っても窮屈に感じない広さだ。
「お箸なんかはこっちの引き戸を使ってもいいかも」
「ああ、そうする」
私も一緒に片付けながら、またも胸がざわつく。
手に取る全てが夫婦仕様だ。夫婦箸に夫婦茶碗、汁椀、ペアのカップ。これも購入する時に話し合って敢えてそうした。
誰がどう見ても幸せな新婚に見えるための作戦に過ぎない。