クールなエリートSPは極悪か溺甘か ~買われた新妻は偽りの旦那様の執愛から逃れられない~
「凜、分かってくれ。父さんは、会社を、社員を守らなければならないんだ。馬鹿な親父だと罵ってくれてもいい」
「…罵るなんて、できるわけないじゃない……。お父さんが家族と同じくらい文月の皆も大切に思っていることくらい知っているわ」

私の言葉に、父はほっとしたように皺を深め微笑を浮かべた。

「ありがとうな、凜」

こうして、文月ホールディングスは失った財産を賄うため借金を背負わざるを得なくなった。それも決して、少額とは言えないほどの。




真司さんの消息は掴めないまま、数週間は嵐のように過ぎていった。
社長を始め文月ホールディングスの幹部の面々は、水谷製薬が関連した事業の見直し、不利益の補償にと多忙を極めた。それに伴い、私たち秘書の業務も立て込んでいる。

「文月、大丈夫か? ここんとこ気が休まる日がないだろ」

事務処理のため総務部に立ち寄った帰り、声をかけてきたのは同期の佐々木だ。
一般の入社試験を受けて入社した私の最初の配属は営業部で、2年ほど営業事務をしていた。総務に異動になったのは1年前なので、秘書課では佐々木が先輩になる。

副社長の秘書をしている彼もまた、このゴタゴタの渦中にいる。

「佐々木もね。 うちの問題で会社引っ掻き回して、みんなには迷惑をかけて申し訳ないと思ってる」
「俺たちはいいんだよ。基本仕事が好きだからな。自分の心配をしろ、文月は。 身の回りで少しでも不審に思うことがあったらすぐに言えよ。この状況で水谷が出てくるとは思えないが、何をするかわからん奴ってことだけは忘れちゃダメだ」

佐々木は少々心配性な節がある。念を押すように言われ、私はにっと笑ってみせた。

「心配ありがとう。大丈夫よ。外でも気を抜かないようにしているし、いざというときは自分の身は自分で守るから」
「文月の逞しさはいつも頼りになるけどさ、今はそれが余計心配なんだよなぁ」

佐々木の困ったような顔に、大袈裟だなぁと苦笑する。
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