クールなエリートSPは極悪か溺甘か ~買われた新妻は偽りの旦那様の執愛から逃れられない~
聞き逃してしまいそうなくらい自然な声音だった。

彼を仰ぎ見た私を、切なげに見下ろす。

「…ふっ。んな顔すんなよ。…ごめん、悪ふざけが過ぎたわ」
「え、私、どんな顔…?」
「んー。『私には好きな人がいるのに、困ったー!』って顔」

佐々木はきゅっと体を縮込めて眉根を寄せ、変な声を出す。
ちょっと語弊があるけれど。私は苦笑する。

「それ私の真似? ぜんっぜん似てないわよ」
「うん。だよな、似てない似てない。 今の、全部忘れて」

からりと笑う佐々木に私はそれ以上何も言えなかった。
佐々木が私のことそんなふうに思っていたなんて、全然気づかなかった。

静寂が続き、時間だけが過ぎていく中、視界に見慣れた車が停まる。

「お、旦那様がお見えになったのでは? ってことで、俺はこの辺で。じゃあな」

言葉を返す前に、佐々木は店の中に戻ってしまった。

車から降りてきた瑛輔に駆け寄る。

「凜」
「瑛輔! お迎え、わざわざ良かったのに。ちゃんとタクシーで帰るって言ったでしょう?」
「俺は危機察知能力が高いんだ。来て正解だった」
「よ、よく分からないけれど、ありがとう」

いつも通り、助手席にエスコートされ、瑛輔が運転席に回る。
車が動き出してすぐ、瑛輔が問う。

「2人で話してたのか」
「瑛輔が来るまで、1人は危ないからって一緒に待っててくれたの」
「店の中にいれば良かっただろ」
「ちょ、ちょっと熱くて、夜風に当たりたかったのよ。…何か怒ってる?」
「…怒ってない」

じゃあ今の間はなによ。
まさか、佐々木と2人だったことが気に食わないわけじゃないだろうし。

しかし、私の都合のいい頭はそこで昨晩のことを思い起こす。

『同期でもなんでも、凛が俺以外の男といると思うと、すげぇ嫌だ。……行くなよ』

『誘惑、してみるとか?』

うわ、もう1個ついてきた。
――いや、ない。ないないない。もう、変なとこセットで記憶しないでよ、私のバカ!

そっと横顔を盗み見る。
表情筋はちっとも動いていなくて、彼の纏う少し気の抜けた雰囲気と今の言葉だけでは、やっぱり瑛輔を理解するには足りなかった。


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