レンタル彼氏と溺愛契約 これって運命の恋ですか?
「こんな形で知り合って、俺のことを信用してもらえないとは思ってる。けれど、俺はずっと君のことが好きだったんだ」
ドクドクと激しく音を立てるのは自分の胸の鼓動か、それとも彼のものなのか。
名前も職業も年齢も、彼のことなど何も知らない。分かっているのは「真朝」というニックネームと、彼がモデルさながらの長身で野性的な雰囲気を隠し持った、とても魅力的な男性だということだけ。
そんな正体不明のレンタル彼氏の逞しい腕の中、立夏は今激しく混乱をしているのだった――。
◆◆◆
淡いライトが照らす落ち着いたウッド調の室内に、個性的な曲線を描くデスクと柔らかなソファ。そして点在する緑生い茂る観葉植物達――。
時刻は午前十一時五十分。
まるでおしゃれなカフェのようなオフィスを一望する窓際の定位置で、近藤立夏は一人ため息をついた。
視界に入ったのは企画書が映ったモニターの右隅に表示された、メール受信の通知アイコンだ。
(またか……)
送信相手の名前の表示に眉を潜めた立夏は、その内容を確かめもせずにノートパソコンの画面を閉じた。
そして大きく伸びをすると、スマホ片手に勢いよく立ち上がった。
「ちょっと早いけど……お昼休憩行ってきまーす」
◇◇◇
「えっ?また例の奴からメールがきたの?」
「ちょっと!声が大きいって」
オープンサンドが名物のファストフード店内にて。メニュー表を見ていた立夏は、慌てて隣に立つ同僚の優美を肘で小突いた。
「もう何度目だっけ?デートの誘い。こっちからは全然返事をしてないのに、よくもまあ心が折れないものね」
「そんなところ感心しないでよ。こっちは困ってるっていうのに」
立夏は恨めしそうに、大袈裟に肩を竦める優美を睨む。
「名刺渡したのはやっぱり失敗だったかなあ」
「でも、異種業界交流会で挨拶されて、名刺交換しないのも変じゃない。仕方ないわよ」
「そうだけど……」
慰めの言葉も虚しいだけだ。立夏は目を瞑ると、自身の行動を悔やむように天を仰いだ。
株式会社サウンズファン。「Sounds Fun!」のモットーをそのまま社名とした、立夏が勤める会社である。アプリ企画開発を主な事業として手掛ける会社は、今年で設立7年目を迎えていた。
雨後の筍のように次々とアプリ会社が立ち上がる今の時代とはいえ、立夏の会社はまだまだ新興企業の部類にあたる。その為社長秘書兼営業担当の立夏としては顔つなぎ目的に、あちこちの企業パーティーの招待状が届く度に社長代行として参加することも多かった。
――そして立夏がその男に声を掛けられたのも、とあるパーティーの席での事だった。
「サウンズファン?――もしかしてあの、『フェアリー&ビースト』の開発会社さんですか?」
長身の男は、立夏の胸元についた社名の書かれたバッチを見ると興味深そうに呟いた。
妖精と猛獣をモチーフにした美麗な画像と練り込まれた世界観が売りのRPGアプリ『フェアリー&ビースト』が驚異的なダウンロード数を叩き出したのは四年前。立夏が入社してすぐの出来事だった。
「あのアプリ、私もインストールしたんですよ。面白いですよね、アレ。着眼点がいいっていうか」
人好きしそうな垂れ目がちな甘い顔立ちの男が差し出した名刺には「株式会社鳳凰堂 広告デザイン部チーフディレクター 山崎一雄」と書かれている。
「ありがとうございます。私、社長秘書と営業をしております近藤と申します」
「御社に関する特集記事は何度も拝見したことがありますよ。そういえば近藤さん……御社はいつも貴女がインタビュー対応されてるようですね?」
「ええ……社長の舞川が、メディアへの露出を苦手としておりまして。代わりに私がお話をさせて頂いているんです」
「へぇ……。じゃあ、やっぱりあの噂はあながち間違ってもいないのかもしれないのかな?」
「噂?」
一体何のことだろう。山崎の零した言葉に、立夏は僅かに肩を傾げた。
「そう。舞川社長は某大学卒業としか公表されていない、謎多き人物じゃないですか。だからよっぽどの秘密を抱えているに違いないって」
「秘密って、そんな大袈裟な」
笑って頭を振る立夏に、山崎は内緒話をするように口元に手をあて顔を近づける。
「まあ世間は都市伝説めいたものが大好物ですからね。……で、実際のところ、舞川社長はどんな人物なんですか?」
「それは……ご想像にお任せしますということで」
さり気なく身を引きながら答えると、予想外の返答だったのか、「おや」と山崎は考え込むような仕草を見せる。
「もしかして……ミステリアスな社長っていう設定も、企業戦略の一つってやつですか?流石、サウンズファンさん。斬新なやり口ですね」
「ええ、まあ」
――企業戦略だったらよかったんだけど。
感心したように頷く山崎の傍らで、立夏は曖昧に微笑んだ。
サウンズファン代表取締役社長、舞川耀生。
学生時代に友人数人と起ち上げたこの会社を、たった数年で百人を超える規模にまで押し上げた立役者でもある稀代のヒットメーカーだ。
だが実は……そんな本人を立夏は今迄一度たりとも実際に会うことはおろか写真一枚見たことがないのだった。
「あいつは変わり者だからね」とは、とある事情で転職活動をしていた立夏をこの会社に引き入れた、設立メンバーの一人でもある優美の談である。
そのうち会うこともあるだろうから、と入社以来言われ続けて結局今日まできてしまった。設立当初のメンバー以外社長の姿を知る者はおらず、「幻の社長」「実はAIなのではないか」――社内ではそんな噂もまことしやかに流れているだなんて、公になどできる訳がない。
そんな社長とのやり取りは専らメールと、極稀に立夏が帰宅した後に出社したらしい社長からの、机に置かれた直筆メモのみというものだけ。
謎に包まれた社長の正体、それは秘書である立夏も知りたいと願うところでもあるのだった。
「しかし……『美人秘書』さんていうのは本当ですね」
山崎の言葉に我に返る。
『話題の企業、美人秘書の一週間』とは、最近ある娯楽雑誌の記事の見出しに使われた言葉だ。普段取材を受けるジャンルとは異なる雑誌だったが、顧客ターゲットを拡大させる良い機会かと取材を受けたのが悪かった。
販売日ギリギリになって届いた見本誌には、なぜか立夏の顔写真と雑談で話した休日の過ごし方などプライベートな話題、そして件のフレーズが大きく掲載されていた。
これではまるで立夏個人が取材対象みたいではないか。
慌てて抗議をしたものの、相手からは「今更内容の変更は出来ない」の一点張り。結局そのまま泣き寝入りとなり、雑誌は世間に流通してしまった。
その後記事の反響は良かったと編集部から連絡があったが、うれしくなんて思えない。
あんな取材、受けなければ良かった。苦い失敗を思い出し、立夏はキュッと唇を噛む。
「近藤さんと毎日一緒に仕事ができる、舞川社長が羨ましくて仕方ありませんよ」
「いえいえそんな事は……」
否定しようとする立夏の言葉を、必要以上に力の籠もった声が遮る。
「美しくて仕事もバリバリこなされる。才色兼備とはまさにこの事。お写真でも美しいとは思っておりましたが、実際にお会いしてみるとそれ以上で、本当に驚きました」
粘度の高い熱っぽい視線が、身体を這う。
――ああ、またか。
瞳の奥に、獲物を狙う獣の様な本能的な仄暗い光を認めた立夏はそっとため息をついた。
立夏の見た目は何と言うのか「人目を引く」らしい。
生き生きと輝く大きな瞳にふっくらとした唇。地味なスーツに押し込まれた、豊かな胸と細い腰。肩にかかる真っ直ぐな黒髪は触れたくなる程に艷やかで――。
けれどそんな事を言われても全く嬉しいとは思えない。スタイル維持の為に運動はしているが、それは自分自身の為であり、誰かの目を楽しませる為のものでは決してない。
「広告のディレクターと仰いますと、どの様なジャンルが得意とされるのでしょうか?」
「私共の会社では、最近では異種業界同士のコラボの御提案をさせて頂くことが多いんですよ。相乗効果が図れると評価も上々ですので、御社もよろしければ一度御検討頂けませんか?」
それとなく仕事の話に話題を戻してやると、例えば……と誇らしげな顔をする山崎の口からその実績の説明がされる。
「有名プロジェクトを多く手掛けられてるんですね」
「ええ。ですので御社のお力にもなれると思いますよ。具体的なプランをご提案いたしますので、近日中にでも是非打ち合わせさせて頂けませんか?」
「では社に戻って検討をさせて頂きますね」
まあ、検討なんてしないけど。
嘘も方便、というやつだ。初対面であんな顔をするような人と円滑な仕事が出来そうな気は、全くしない。
立夏は心の中で舌を出すと、営業スマイルを残しその場から立ち去った。
そう。それで、終わった筈だった。
◇◇◇
『打ち合わせの件、如何がでしょうか?』
翌日、山崎から届いた早速のメールに立夏は目を丸くした。
仕事が欲しくて仕方がないのだろうか。それとも――?
訝しげながらも『お願いする際は、後日こちらから連絡する』と簡単に返事を打つ。社会人として、付き合ってやるのはここまでだ。後は忘れてくれるだろう。
けれどそう思っていたのは立夏だけだったようだ。素っ気ない返信は逆効果だったのか、それから頻繁にメールが届くようになってしまった。
『その後進捗いかがでしょうか?』
『営業も兼ねまして一度食事でもいかがですか?』
『仕事抜きでもいいですので、一度会って頂けませんか?』
無視を決め込んでいるうちに、メールはどんどん私的な内容になってくる。執着のようなものが滲み出た、そんなものが毎日の様に届く状況に立夏は密かに頭を悩まされているのだった。
「そんなのアドレスブロックすればいいんじゃないの?」
「でも向こうは大手の広告代理店だし、色々顔が広いみたいで……。変にブロックして会社の悪口でも言われたら嫌だし」
『私は多くの著名人や企業人とも交流がありますので、親しくしていたほうが御社にも利益があると思いませんか?』
やんわりとだが脅しとも取れるその内容に、思い切った行動を取るのも躊躇させられる。
私的なことで会社の評判を落としたと言われるのは懲り懲りだ。頭を振る立夏に目を細めた優美だったが、何か閃いたように「あっそうだ!」と手を叩いた。
「だったら『レンタル彼氏』試してみない?」
◆◆◆
帰社後、優美が立夏の目の前に差し出したのは『TSUNAGU』の文字が躍るスマホアプリの画面だった。促されて画面をタップすると「あなた誰の『時間』をレンタルする?」という文字に切り替わる。
「あ、これ、この前定例会議で言ってた新しいアプリ?」
立夏が以前出席した開発チームの進捗会議の議題は「人材マッチング」のアプリの開発状況だった。サウンズファンにとって新規ジャンルへの参入となるこの取り組みだったが、リリースまで最終段階となったところで競合他社との差別化を図るのに難航している様子だった。
「色々検討してみた結果、メインターゲットを独身女性にして、レンタル彼氏に特化することにしてみたの」
『レンタル彼氏』とはその名の通り、『彼氏』として登録したユーザーとその時間を買いたいユーザーとを橋渡しするサービスだ。
「レンタル……彼氏?それ、怪しくないの?」
「失礼ね。そこはちゃんとしてるわよ!『彼氏』として登録できるのは身元がはっきりしてる人だけだし、もちろんアダルトな依頼もNG。今はテスト作動でモニターに色々試してもらってるところなんだけど、よかったら立夏も登録して試してみない?」
「え、でも、私、別に彼氏が欲しいわけじゃないし」
困惑する立夏に、「そうじゃないんだよなあ」と優美が人差し指を横に振る。
「レンタル彼氏って名前だけど、用途は色々なのよ。単純にデートするのは勿論だけど、引っ越しの手伝いみたいな力仕事のお願いをしてもらうでもいいし。あとは……ボディガードとして依頼をするとかね」
優美の言わん事を悟った立夏は思わず苦笑いをする。
「あのしつこい人対策に、ってこと?頻繁にメールが来るくらいだけだからそこまで警戒する必要はないわ」
「そうなの?でも……まあ、ものは試しにさ」
そう言うと立夏の手から社有携帯を奪って、慣れた手つきで画面を操作し始めた。
「はいっ!これでインストールできた!」
「あっちょっと!」
「気が向いたら登録してみてね」
ウインクをすると優美は作業へと戻って行く。
「気が向く……ねえ」
アプリの画面を眺めながら、立夏は一人ため息をついた。
◇◇◇
その日の仕事が終わったのは午後7時を過ぎていた。オフィスビルの外に出ると、心地よい風がそよいでいた。上を向くと、ネオンの光に霞みながらも星がキラキラ瞬いている。
いい夜だな。
目を細めてひとしれずそっと吐息を漏らしていると背後から肩を叩かれた。
「立夏さん。お疲れ様です」
「……え?」
振り返って相手を確かめると、直ぐ側にに立っていたのは先日のしつこいあの男――鳳凰堂の山崎だった。
「――――っ?!」
驚いて後ずさる立夏の元に、にこやかな笑みを浮かべた山崎が足を一歩踏み込む。
「いくら待ってもお返事が頂けなかったので、こちらから来てみちゃいました」
穏やかな口調の男の姿を見ていると、暑くもないのになぜか汗が噴き出してくる。
「えっと、あの……色々忙しくてですね」
「そうでしょうとも。でもね、たまには息抜きも必要ですよ?近くにいいバーがあるんですよ。今からでも行きませんか?」
「いえ、今日はもう帰らないと行けないので」
「そんな事仰らずに」
山崎は手首を掴むと、立夏を連れ出そうと強引に歩き出す。
「ちょ、ちょっと……!」
足を踏みしめ力を込めて思い切り腕を振り払うと、その反動で上半身がぐらりと大きく揺れる。
(あっ!転んじゃう――!!)
ギュッと目を閉じ衝撃に備えていると、ボフンとクッション性のある、暖かな何かにぶつかった。
「大丈夫ですか?」
頭上から聞こえた声にそっと目を開けると、柔らかな布地が視界に広がる。慌てて顔を上げてみると心配そうに眉を下げた黒縁眼鏡の男性がこちらの顔をじっと覗き込んでいる。
どうやら勢い余ってこの男性の胸に顔ごと飛び込んでしまった様だった。
「あ、えっと、す、すみませんっ!」
「……もしかして、困ってます?」
耳元でそっと囁かれて、身体がビクンと硬直する。
「困ってたら頷いて?」
ゆっくり頭を縦に振ると、「そっか」という声と共に身体に腕が巻き付かれた。
「おいっ!なんだよお前!邪魔すんなっ」
苛立ちを隠そうともしない山崎から隠すように、男性は立夏の身体を背中に回す。
「無理矢理はよくないんじゃないですか?」
「なんだとっ?!」
掴みかかろうとした山崎だったが、男性の背は長身の山崎よりまだ高く、しっかりとした体躯である。分が悪いと思ったのか「クソっ」と小声で悪態をつくと、そっと振り上げた拳を下げた。
「立夏さん、取り乱して申し訳ありません。また次回、お誘いしますね」
男性に背中に隠れた立夏に猫なで声で呼びかけると、山崎はそのまま去っていった。
「――あの、ありがとうごさいました」
「いや、全然。それより君の方こそ大丈夫?」
「あ、はい、なんとか……」
とは言うものの、足が震えて身体に力が入らない。
「これから帰るところだった?」
「はい」
「落ち着くまでお茶でもどう?って言いたいところだけど……さっきの今じゃそんな気分にもならないよね」
男性は辺りを見渡してから「ちょっと待ってて」と車道の方へと走っていった。
「今、タクシー捕まえたから」
少しして戻ってきた男性は停車したタクシーまで一緒について来てくれた。そして車内に乗り込んだ立夏を見届けると「これで帰りなさい」と立夏の両手に一万円札を数枚握らせた。
「えっ!こんなお金受け取れませんよ!」
「いいから。これは俺が勝手にやってることだから。……でももし足りなかったらそこはゴメンね」
茶目っ気たっぷりにウインクすると、慌てる立夏を制してドアを閉める。そして男性は運転手に出発するようにジェスチャーをして、車からその姿が見えなくなるまで手を振り続けてくれるのだった。
彼は何者だったのだろう――。
それから数十分後。無事帰宅した立夏は、一万円札を見つめながら腕組みをして考えていた。
スポーツでもしているかのようなしっかりとした体躯と長身、そして黒縁眼鏡。長めの黒髪は触り心地良さそうにふわふわと揺れていた。
(困ったところに颯爽と現れたなんて、スーパーヒーローみたい)
洋服の下に隠されたアメコミヒーローのボディースーツを連想して、思わずくすりと笑みが漏れる。
立夏の会社がある辺りはオフィス街である。きっとまた何処かで会える。その時はお金も返してちゃんとお礼を言おう。立夏はそう決心すると、明日に備えてベットに入るのだった。
◇◇◇
翌朝立夏は優美に昨日の彼の特徴を伝え、見たことがあるか聞いてみた。
「その人がなんなの?」
「えっと、実は……」
うまく答えられなくて結局昨日あった出来事を正直に話すと優美は青筋を立てて怒り出した。
「だから気をつけないとって言ったのに!危機感がないんだら全く!!ほらスマホ貸して」
有無を言わせない勢いに飲まれて社有携帯を渡すと、優美はそのまま操作をし始める。
「ほらっ!ボディーガードもしてくれるレンタル彼氏、予約しておいたから。今日の夕方18時半待ち合わせにしておいたから、絶対すっぽかさないで行きなさいよっ!」
ぽいっと社有携帯を投げつけると、優美は立夏に念押しをするのだった。
(変な事になっちゃったなあ)
就業が終わって18時25分。優美に半ば追い立てられて、立夏は待ち合わせ場所のカフェにいた。会社からほど近いこの場所は、立夏も何度も立ち寄ったことがある店だ。そんな場所を待ち合わせに使うのはなんともおかしな気分にもなってくる。
落ち着かない気持ちでいると時刻はどんどん過ぎていく。
そして気がつくと18時55分。
(もしかして、すっぽかされた?)
待ち合わせ予定から大分過ぎて、立夏はやれやれとため息をついた。優美は信用のおける人を登録してると言っていたが、中にはいい加減な人もいるようだ。
ユーザー登録時のトラブルにならない様に一応伝えておいた方が良いだろう。忘れないようにメモを取っていると、カフェのドアが勢いよく開かれた。
「すみませんっ!遅れました――」
バリトンボイスが店内に響く。その声に頭を上げると、立夏の目の前に見覚えのある黒縁眼鏡の長身の人物が立っている。息を乱し、髪をくしゃくしゃにしたその男性――。彼こそが昨日立夏を助けてくれたその人なのだった。
ドクドクと激しく音を立てるのは自分の胸の鼓動か、それとも彼のものなのか。
名前も職業も年齢も、彼のことなど何も知らない。分かっているのは「真朝」というニックネームと、彼がモデルさながらの長身で野性的な雰囲気を隠し持った、とても魅力的な男性だということだけ。
そんな正体不明のレンタル彼氏の逞しい腕の中、立夏は今激しく混乱をしているのだった――。
◆◆◆
淡いライトが照らす落ち着いたウッド調の室内に、個性的な曲線を描くデスクと柔らかなソファ。そして点在する緑生い茂る観葉植物達――。
時刻は午前十一時五十分。
まるでおしゃれなカフェのようなオフィスを一望する窓際の定位置で、近藤立夏は一人ため息をついた。
視界に入ったのは企画書が映ったモニターの右隅に表示された、メール受信の通知アイコンだ。
(またか……)
送信相手の名前の表示に眉を潜めた立夏は、その内容を確かめもせずにノートパソコンの画面を閉じた。
そして大きく伸びをすると、スマホ片手に勢いよく立ち上がった。
「ちょっと早いけど……お昼休憩行ってきまーす」
◇◇◇
「えっ?また例の奴からメールがきたの?」
「ちょっと!声が大きいって」
オープンサンドが名物のファストフード店内にて。メニュー表を見ていた立夏は、慌てて隣に立つ同僚の優美を肘で小突いた。
「もう何度目だっけ?デートの誘い。こっちからは全然返事をしてないのに、よくもまあ心が折れないものね」
「そんなところ感心しないでよ。こっちは困ってるっていうのに」
立夏は恨めしそうに、大袈裟に肩を竦める優美を睨む。
「名刺渡したのはやっぱり失敗だったかなあ」
「でも、異種業界交流会で挨拶されて、名刺交換しないのも変じゃない。仕方ないわよ」
「そうだけど……」
慰めの言葉も虚しいだけだ。立夏は目を瞑ると、自身の行動を悔やむように天を仰いだ。
株式会社サウンズファン。「Sounds Fun!」のモットーをそのまま社名とした、立夏が勤める会社である。アプリ企画開発を主な事業として手掛ける会社は、今年で設立7年目を迎えていた。
雨後の筍のように次々とアプリ会社が立ち上がる今の時代とはいえ、立夏の会社はまだまだ新興企業の部類にあたる。その為社長秘書兼営業担当の立夏としては顔つなぎ目的に、あちこちの企業パーティーの招待状が届く度に社長代行として参加することも多かった。
――そして立夏がその男に声を掛けられたのも、とあるパーティーの席での事だった。
「サウンズファン?――もしかしてあの、『フェアリー&ビースト』の開発会社さんですか?」
長身の男は、立夏の胸元についた社名の書かれたバッチを見ると興味深そうに呟いた。
妖精と猛獣をモチーフにした美麗な画像と練り込まれた世界観が売りのRPGアプリ『フェアリー&ビースト』が驚異的なダウンロード数を叩き出したのは四年前。立夏が入社してすぐの出来事だった。
「あのアプリ、私もインストールしたんですよ。面白いですよね、アレ。着眼点がいいっていうか」
人好きしそうな垂れ目がちな甘い顔立ちの男が差し出した名刺には「株式会社鳳凰堂 広告デザイン部チーフディレクター 山崎一雄」と書かれている。
「ありがとうございます。私、社長秘書と営業をしております近藤と申します」
「御社に関する特集記事は何度も拝見したことがありますよ。そういえば近藤さん……御社はいつも貴女がインタビュー対応されてるようですね?」
「ええ……社長の舞川が、メディアへの露出を苦手としておりまして。代わりに私がお話をさせて頂いているんです」
「へぇ……。じゃあ、やっぱりあの噂はあながち間違ってもいないのかもしれないのかな?」
「噂?」
一体何のことだろう。山崎の零した言葉に、立夏は僅かに肩を傾げた。
「そう。舞川社長は某大学卒業としか公表されていない、謎多き人物じゃないですか。だからよっぽどの秘密を抱えているに違いないって」
「秘密って、そんな大袈裟な」
笑って頭を振る立夏に、山崎は内緒話をするように口元に手をあて顔を近づける。
「まあ世間は都市伝説めいたものが大好物ですからね。……で、実際のところ、舞川社長はどんな人物なんですか?」
「それは……ご想像にお任せしますということで」
さり気なく身を引きながら答えると、予想外の返答だったのか、「おや」と山崎は考え込むような仕草を見せる。
「もしかして……ミステリアスな社長っていう設定も、企業戦略の一つってやつですか?流石、サウンズファンさん。斬新なやり口ですね」
「ええ、まあ」
――企業戦略だったらよかったんだけど。
感心したように頷く山崎の傍らで、立夏は曖昧に微笑んだ。
サウンズファン代表取締役社長、舞川耀生。
学生時代に友人数人と起ち上げたこの会社を、たった数年で百人を超える規模にまで押し上げた立役者でもある稀代のヒットメーカーだ。
だが実は……そんな本人を立夏は今迄一度たりとも実際に会うことはおろか写真一枚見たことがないのだった。
「あいつは変わり者だからね」とは、とある事情で転職活動をしていた立夏をこの会社に引き入れた、設立メンバーの一人でもある優美の談である。
そのうち会うこともあるだろうから、と入社以来言われ続けて結局今日まできてしまった。設立当初のメンバー以外社長の姿を知る者はおらず、「幻の社長」「実はAIなのではないか」――社内ではそんな噂もまことしやかに流れているだなんて、公になどできる訳がない。
そんな社長とのやり取りは専らメールと、極稀に立夏が帰宅した後に出社したらしい社長からの、机に置かれた直筆メモのみというものだけ。
謎に包まれた社長の正体、それは秘書である立夏も知りたいと願うところでもあるのだった。
「しかし……『美人秘書』さんていうのは本当ですね」
山崎の言葉に我に返る。
『話題の企業、美人秘書の一週間』とは、最近ある娯楽雑誌の記事の見出しに使われた言葉だ。普段取材を受けるジャンルとは異なる雑誌だったが、顧客ターゲットを拡大させる良い機会かと取材を受けたのが悪かった。
販売日ギリギリになって届いた見本誌には、なぜか立夏の顔写真と雑談で話した休日の過ごし方などプライベートな話題、そして件のフレーズが大きく掲載されていた。
これではまるで立夏個人が取材対象みたいではないか。
慌てて抗議をしたものの、相手からは「今更内容の変更は出来ない」の一点張り。結局そのまま泣き寝入りとなり、雑誌は世間に流通してしまった。
その後記事の反響は良かったと編集部から連絡があったが、うれしくなんて思えない。
あんな取材、受けなければ良かった。苦い失敗を思い出し、立夏はキュッと唇を噛む。
「近藤さんと毎日一緒に仕事ができる、舞川社長が羨ましくて仕方ありませんよ」
「いえいえそんな事は……」
否定しようとする立夏の言葉を、必要以上に力の籠もった声が遮る。
「美しくて仕事もバリバリこなされる。才色兼備とはまさにこの事。お写真でも美しいとは思っておりましたが、実際にお会いしてみるとそれ以上で、本当に驚きました」
粘度の高い熱っぽい視線が、身体を這う。
――ああ、またか。
瞳の奥に、獲物を狙う獣の様な本能的な仄暗い光を認めた立夏はそっとため息をついた。
立夏の見た目は何と言うのか「人目を引く」らしい。
生き生きと輝く大きな瞳にふっくらとした唇。地味なスーツに押し込まれた、豊かな胸と細い腰。肩にかかる真っ直ぐな黒髪は触れたくなる程に艷やかで――。
けれどそんな事を言われても全く嬉しいとは思えない。スタイル維持の為に運動はしているが、それは自分自身の為であり、誰かの目を楽しませる為のものでは決してない。
「広告のディレクターと仰いますと、どの様なジャンルが得意とされるのでしょうか?」
「私共の会社では、最近では異種業界同士のコラボの御提案をさせて頂くことが多いんですよ。相乗効果が図れると評価も上々ですので、御社もよろしければ一度御検討頂けませんか?」
それとなく仕事の話に話題を戻してやると、例えば……と誇らしげな顔をする山崎の口からその実績の説明がされる。
「有名プロジェクトを多く手掛けられてるんですね」
「ええ。ですので御社のお力にもなれると思いますよ。具体的なプランをご提案いたしますので、近日中にでも是非打ち合わせさせて頂けませんか?」
「では社に戻って検討をさせて頂きますね」
まあ、検討なんてしないけど。
嘘も方便、というやつだ。初対面であんな顔をするような人と円滑な仕事が出来そうな気は、全くしない。
立夏は心の中で舌を出すと、営業スマイルを残しその場から立ち去った。
そう。それで、終わった筈だった。
◇◇◇
『打ち合わせの件、如何がでしょうか?』
翌日、山崎から届いた早速のメールに立夏は目を丸くした。
仕事が欲しくて仕方がないのだろうか。それとも――?
訝しげながらも『お願いする際は、後日こちらから連絡する』と簡単に返事を打つ。社会人として、付き合ってやるのはここまでだ。後は忘れてくれるだろう。
けれどそう思っていたのは立夏だけだったようだ。素っ気ない返信は逆効果だったのか、それから頻繁にメールが届くようになってしまった。
『その後進捗いかがでしょうか?』
『営業も兼ねまして一度食事でもいかがですか?』
『仕事抜きでもいいですので、一度会って頂けませんか?』
無視を決め込んでいるうちに、メールはどんどん私的な内容になってくる。執着のようなものが滲み出た、そんなものが毎日の様に届く状況に立夏は密かに頭を悩まされているのだった。
「そんなのアドレスブロックすればいいんじゃないの?」
「でも向こうは大手の広告代理店だし、色々顔が広いみたいで……。変にブロックして会社の悪口でも言われたら嫌だし」
『私は多くの著名人や企業人とも交流がありますので、親しくしていたほうが御社にも利益があると思いませんか?』
やんわりとだが脅しとも取れるその内容に、思い切った行動を取るのも躊躇させられる。
私的なことで会社の評判を落としたと言われるのは懲り懲りだ。頭を振る立夏に目を細めた優美だったが、何か閃いたように「あっそうだ!」と手を叩いた。
「だったら『レンタル彼氏』試してみない?」
◆◆◆
帰社後、優美が立夏の目の前に差し出したのは『TSUNAGU』の文字が躍るスマホアプリの画面だった。促されて画面をタップすると「あなた誰の『時間』をレンタルする?」という文字に切り替わる。
「あ、これ、この前定例会議で言ってた新しいアプリ?」
立夏が以前出席した開発チームの進捗会議の議題は「人材マッチング」のアプリの開発状況だった。サウンズファンにとって新規ジャンルへの参入となるこの取り組みだったが、リリースまで最終段階となったところで競合他社との差別化を図るのに難航している様子だった。
「色々検討してみた結果、メインターゲットを独身女性にして、レンタル彼氏に特化することにしてみたの」
『レンタル彼氏』とはその名の通り、『彼氏』として登録したユーザーとその時間を買いたいユーザーとを橋渡しするサービスだ。
「レンタル……彼氏?それ、怪しくないの?」
「失礼ね。そこはちゃんとしてるわよ!『彼氏』として登録できるのは身元がはっきりしてる人だけだし、もちろんアダルトな依頼もNG。今はテスト作動でモニターに色々試してもらってるところなんだけど、よかったら立夏も登録して試してみない?」
「え、でも、私、別に彼氏が欲しいわけじゃないし」
困惑する立夏に、「そうじゃないんだよなあ」と優美が人差し指を横に振る。
「レンタル彼氏って名前だけど、用途は色々なのよ。単純にデートするのは勿論だけど、引っ越しの手伝いみたいな力仕事のお願いをしてもらうでもいいし。あとは……ボディガードとして依頼をするとかね」
優美の言わん事を悟った立夏は思わず苦笑いをする。
「あのしつこい人対策に、ってこと?頻繁にメールが来るくらいだけだからそこまで警戒する必要はないわ」
「そうなの?でも……まあ、ものは試しにさ」
そう言うと立夏の手から社有携帯を奪って、慣れた手つきで画面を操作し始めた。
「はいっ!これでインストールできた!」
「あっちょっと!」
「気が向いたら登録してみてね」
ウインクをすると優美は作業へと戻って行く。
「気が向く……ねえ」
アプリの画面を眺めながら、立夏は一人ため息をついた。
◇◇◇
その日の仕事が終わったのは午後7時を過ぎていた。オフィスビルの外に出ると、心地よい風がそよいでいた。上を向くと、ネオンの光に霞みながらも星がキラキラ瞬いている。
いい夜だな。
目を細めてひとしれずそっと吐息を漏らしていると背後から肩を叩かれた。
「立夏さん。お疲れ様です」
「……え?」
振り返って相手を確かめると、直ぐ側にに立っていたのは先日のしつこいあの男――鳳凰堂の山崎だった。
「――――っ?!」
驚いて後ずさる立夏の元に、にこやかな笑みを浮かべた山崎が足を一歩踏み込む。
「いくら待ってもお返事が頂けなかったので、こちらから来てみちゃいました」
穏やかな口調の男の姿を見ていると、暑くもないのになぜか汗が噴き出してくる。
「えっと、あの……色々忙しくてですね」
「そうでしょうとも。でもね、たまには息抜きも必要ですよ?近くにいいバーがあるんですよ。今からでも行きませんか?」
「いえ、今日はもう帰らないと行けないので」
「そんな事仰らずに」
山崎は手首を掴むと、立夏を連れ出そうと強引に歩き出す。
「ちょ、ちょっと……!」
足を踏みしめ力を込めて思い切り腕を振り払うと、その反動で上半身がぐらりと大きく揺れる。
(あっ!転んじゃう――!!)
ギュッと目を閉じ衝撃に備えていると、ボフンとクッション性のある、暖かな何かにぶつかった。
「大丈夫ですか?」
頭上から聞こえた声にそっと目を開けると、柔らかな布地が視界に広がる。慌てて顔を上げてみると心配そうに眉を下げた黒縁眼鏡の男性がこちらの顔をじっと覗き込んでいる。
どうやら勢い余ってこの男性の胸に顔ごと飛び込んでしまった様だった。
「あ、えっと、す、すみませんっ!」
「……もしかして、困ってます?」
耳元でそっと囁かれて、身体がビクンと硬直する。
「困ってたら頷いて?」
ゆっくり頭を縦に振ると、「そっか」という声と共に身体に腕が巻き付かれた。
「おいっ!なんだよお前!邪魔すんなっ」
苛立ちを隠そうともしない山崎から隠すように、男性は立夏の身体を背中に回す。
「無理矢理はよくないんじゃないですか?」
「なんだとっ?!」
掴みかかろうとした山崎だったが、男性の背は長身の山崎よりまだ高く、しっかりとした体躯である。分が悪いと思ったのか「クソっ」と小声で悪態をつくと、そっと振り上げた拳を下げた。
「立夏さん、取り乱して申し訳ありません。また次回、お誘いしますね」
男性に背中に隠れた立夏に猫なで声で呼びかけると、山崎はそのまま去っていった。
「――あの、ありがとうごさいました」
「いや、全然。それより君の方こそ大丈夫?」
「あ、はい、なんとか……」
とは言うものの、足が震えて身体に力が入らない。
「これから帰るところだった?」
「はい」
「落ち着くまでお茶でもどう?って言いたいところだけど……さっきの今じゃそんな気分にもならないよね」
男性は辺りを見渡してから「ちょっと待ってて」と車道の方へと走っていった。
「今、タクシー捕まえたから」
少しして戻ってきた男性は停車したタクシーまで一緒について来てくれた。そして車内に乗り込んだ立夏を見届けると「これで帰りなさい」と立夏の両手に一万円札を数枚握らせた。
「えっ!こんなお金受け取れませんよ!」
「いいから。これは俺が勝手にやってることだから。……でももし足りなかったらそこはゴメンね」
茶目っ気たっぷりにウインクすると、慌てる立夏を制してドアを閉める。そして男性は運転手に出発するようにジェスチャーをして、車からその姿が見えなくなるまで手を振り続けてくれるのだった。
彼は何者だったのだろう――。
それから数十分後。無事帰宅した立夏は、一万円札を見つめながら腕組みをして考えていた。
スポーツでもしているかのようなしっかりとした体躯と長身、そして黒縁眼鏡。長めの黒髪は触り心地良さそうにふわふわと揺れていた。
(困ったところに颯爽と現れたなんて、スーパーヒーローみたい)
洋服の下に隠されたアメコミヒーローのボディースーツを連想して、思わずくすりと笑みが漏れる。
立夏の会社がある辺りはオフィス街である。きっとまた何処かで会える。その時はお金も返してちゃんとお礼を言おう。立夏はそう決心すると、明日に備えてベットに入るのだった。
◇◇◇
翌朝立夏は優美に昨日の彼の特徴を伝え、見たことがあるか聞いてみた。
「その人がなんなの?」
「えっと、実は……」
うまく答えられなくて結局昨日あった出来事を正直に話すと優美は青筋を立てて怒り出した。
「だから気をつけないとって言ったのに!危機感がないんだら全く!!ほらスマホ貸して」
有無を言わせない勢いに飲まれて社有携帯を渡すと、優美はそのまま操作をし始める。
「ほらっ!ボディーガードもしてくれるレンタル彼氏、予約しておいたから。今日の夕方18時半待ち合わせにしておいたから、絶対すっぽかさないで行きなさいよっ!」
ぽいっと社有携帯を投げつけると、優美は立夏に念押しをするのだった。
(変な事になっちゃったなあ)
就業が終わって18時25分。優美に半ば追い立てられて、立夏は待ち合わせ場所のカフェにいた。会社からほど近いこの場所は、立夏も何度も立ち寄ったことがある店だ。そんな場所を待ち合わせに使うのはなんともおかしな気分にもなってくる。
落ち着かない気持ちでいると時刻はどんどん過ぎていく。
そして気がつくと18時55分。
(もしかして、すっぽかされた?)
待ち合わせ予定から大分過ぎて、立夏はやれやれとため息をついた。優美は信用のおける人を登録してると言っていたが、中にはいい加減な人もいるようだ。
ユーザー登録時のトラブルにならない様に一応伝えておいた方が良いだろう。忘れないようにメモを取っていると、カフェのドアが勢いよく開かれた。
「すみませんっ!遅れました――」
バリトンボイスが店内に響く。その声に頭を上げると、立夏の目の前に見覚えのある黒縁眼鏡の長身の人物が立っている。息を乱し、髪をくしゃくしゃにしたその男性――。彼こそが昨日立夏を助けてくれたその人なのだった。


