わたしを「殺した」のは、鬼でした
 そっと髪に触れると、簪の椿の花が指先にあたった。
 振袖も、綺麗な髪形も、お化粧も……。すべてがはじめてで、どきどきそわそわしてしまう。

 ぱちぱちと火桶の中の炭が爆ぜる音がして、雪見障子の奥――庭の柚子の低木から、ぱさりと雪が落ちるのが見えた。
 千早様のお邸がそうなのか、それとも鬼の隠れ里全体がそうなのか。ここは、時代を少し遡ったような、優美な雰囲気に満ちている。

 帝都は喧騒に満ちているが、ここは静寂に包まれている。
 それに優劣なんてつけられないけれど、わたしはこの静かな雰囲気が好きだった。

「お待たせしたわね~」

 そんな静寂の中に、牡丹様の華やかな声がする。
 すっと開いた襖に視線を向け、わたしは牡丹様の隣にいた千早様に目を見張った。

 ……え?

「ほーら千早、見てごらんなさい。あなたがこれまでいかに甲斐性なしだったかわかると言うものでしょう?」

 自慢げに胸を張り、牡丹様が「ほほほ」と笑う。
 千早様は座っていたわたしを静かに見下ろして、わずかに目を見張った。

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