わたしを「殺した」のは、鬼でした
「謝ることではないだろう」

 あきれたように言って、千早様が手に持っていた三本のお団子をぺろりと平らげると、緑茶の入った茶碗に手を伸ばした。
 お茶をゆっくり飲みながら、わたしがもそもそとお団子を食べるのを見て目を細める。

「髪が赤いから赤が似合うと思ったが、瑠璃も似合うな」

 ぽつりと、まるで天気のお話をするかのような気軽さで言われて、わたしは危うくお団子をのどに詰まらせるところだった。
 かあっと顔に熱がたまる。

「前も言ったが、俺に女のことはわからん。牡丹はあんなだが、悪いようにはしないはずだ」

 悪いようにしないどころか、こんなに高価なものをたくさん買ってもらってどうしたらいいのかわからない。

 ……わたしは、下女、ですよ?

 千早様の気まぐれで生かされている、いつ死ぬかもわからない立場なのに、こんなによくしていただくのは間違っている……はずだ。
 こんなに優しくされると、分不相応にも、変な期待をしてしまいそうで怖い。

 ……わたしを殺して、わたしを鬼にした、優しい鬼。

 どうしてわたしは道間家に生まれたのだろうかと、これほど強く思ったのははじめてかもしれなかった。


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