わたしを「殺した」のは、鬼でした
「わたしは、あのままだとおそらく夜が明ける前に息絶えていたと思います。千早様が救ってくださらなかったら、ここにはおりません」

 人としての生を終えたのだから、わたしは一度死んだということでいいのだと思う。
 だけど、千早様がわたしを手にかけなくても、どちらにせよわたしは死んでいた。
 そして人として死ぬ間際、一人ぼっちで死ぬより、千早様に殺される方がいいと思ったのも事実だ。
 むしろ、安堵したほどだったのだから、千早様が謝る必要はどこにもない。

 それどころか、道間で暮らしていたときより、よほど穏やかでいい暮らしをさせてもらっている。
 鬼になりたてで、鬼のことはよくわかっていないけれど、わたしに新しい生を与えてくれた千早様に一生お仕えしたいと思うくらいには感謝しているのだ。

「千早様は悪かったとおっしゃいましたけれど、わたしは、千早様に鬼にしていただいて嬉しいです」

 黒を持たずに道間に生まれたわたしは、人のままでは平穏に生きられなかった。
 黒髪で生まれていたか、もしくは破魔の力を持っていたならば違っただろうが、逆に、そのどちらかがあれば道間らしい人間に育っただろう。

 もしわたしが道間らしい道間であれば、千早様とこのように雪景色の中をお散歩することもなかった。
 だからわたしは、今の結果に満足している。この上なく、幸せだと思う。
 乳母が願い「ユキ」と名付けられたわたしは、確かに今、その名に秘められた「幸」と言うものを感じているのだ。

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