弟、お試し彼氏になる。



どこに行ったらいいのか。
ちゃっかり私の手を取ったままの悠は、目的地を知ってるのかな。
振り解かない私は、どこまで着いていくつもりなんだろう。


「……なんで、あんなアプリ……」

「母さんから聞いた。だから、先輩って言ってもほんのちょっとだと思う。まさか、本当に絢に当たるとは思わなかったけど。つまり、客観的に見ても俺たち合うってことじゃないの」


(……本当に悠なの……)


アプリを通してした会話を目の前の悠――弟が知ってる。
この感覚は絶望に近いとおもうのに、同時にドキッとしてしまう自分がいて泣きたくなる。


「疎遠だと思ってた」

「それは絢の方だろ。それに……母さん、話したいことがあるって言ってなかった?」

「……なんか、言ってた気もするけど……」


この後少ししたら、親から返信が来るだろう。
だから、今悠の口から聞かなくても――……。


「あの二人、離婚したんだよ」

「……えっ!? 」


――よかった、のに。

さすがに、その言葉には反応せずにはいられなかった。
悠は「あの二人」なんて言い方をしたけど、再婚した私たちの両親が離婚したってことは。


「俺たち、もう姉弟じゃないんじゃない? ……元々違ったんだしさ」

「……そんな……」


法律的にはどうなんだろうか。
気持ち的には?
私たち家族は、どうなっちゃうの――……。


「まあ、円満な離婚らしいよ。二人揃って、笑ってごめんって報告してきたし」

「……二人らしいね」


結婚するって聞いた時も、そんな感じだった。
「この歳になって、恋に落ちちゃったのよ。ごめんね」って、お母さんは明るく言ってた。
謝ることじゃないし、一人で私を育ててくれた時間の分も、これから幸せになってくれたらいいなと思った。
お父さんも優しかったし、お母さんと同じくらいちょっと変わってて面白かったけど。


「あんなアプリに登録したのは、興味があったから。もしも絢と全然違う出逢い方をしたら……弟として家で会わずに、他人のまま話したらどうなるのか。俺のこと、どんなふうに見るのか知りたかったから。……他の男に奪われるのが嫌だったから」


姉として、悠の前に現れなかったら。
私は――……。


「すごく楽しかったよ。家でした、どの会話よりも嬉しかった」


ふいに悠のもう片方の手が伸びてきて、きゅっと目を瞑る。


「やっぱり、全然“姉さん”じゃない。きっと、絢が意識して見せなかったこととか、逆に見せてきた姿とか。そういうのと全然違ったんだ。声だけなのに」


(……ああ、間違った)


ここは、笑って触れられたままでいるか真顔でいるべき場面だったのに。


「今だってそうだよ。昔だって、絢を姉さんだなんて思ったこと一度もなかったけど」


――今は、どう見てもただの女の子に見える。




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