弟、お試し彼氏になる。




私は、知らない男の子相手に自分のことを喋りまくっていたらしい。


『お父さんはいないんだー。浮気して、他の女のところに行ってー、挙句その女にも捨てられて、どっかで寂しく暮らしてるんだって』

『……そんなことまで、誰も聞いてないんだけど。っていうか、意味分かって言ってる? 』


私は人見知りする方だし内容も内容で、子どもだったとはいえ自分が信じられない。


「あの頃から、絢は可愛かったよね。……名前、忘れたことなんかなかった。それに……」


『ハルくんは、いつまでここにいるの? 』

『……さあ、どうかな。いつか、頑張り終わるまでじゃない。でも、絢はもう来たらダメだよ。せっかくただの風邪だったのに、他のが移ったらどうするの』

(……あ……)


「……その呼び方も。略してるの、 “か” だけだろっておかしくて……すごく、嬉しかった」


私、そんなことも忘れてる。
聞いているだけで、私にとってもすごく大切な思い出だって分かるのに。


「本当に気にしないで。具合悪かったんだし、本当に数分のことだったんだ。忘れて当然だよ。覚えてる方が異常で、たったそれだけのことで好きになる俺がおかしいんだ」

「そんなことない。私は嬉しいし、思い出したいもん



悠にとっては、同世代の子と話すのも珍しい出来事だったかもしれない。
比較対象も少ないのなら、好きになってくれたとしても全然変じゃないし、何より私が嬉しい。


「ありがと。でも、本当にあの頃の俺は可愛げがなかったから、忘れててくれてちょっとほっとしたんだ。それにやっぱり……普通に気持ち悪いと思うから」

「……っ、そ」

「初恋じゃないんだ。本当にそれからずっと好きで……他の誰も、好きになれなかった。しかも、今も変わらない。二回目が、俺には起こり得ないんだよ」


あり得ないくらい、一途。
そんな告白を、私は気持ち悪いと思うことができない。


「父さんが心配してるのは、そこ。こんなに絢に執着してる俺が、いつか絢を傷つけるんじゃないかって。こんな俺を絢が嫌いになった時、絢に何かをしてしまうんじゃないかって……そういうことじゃないかな」


何となく、事情は飲み込めたけど、でも。


「なんで、私が悠を嫌いになる前提なの? 怒ったり泣いたりするかもしれないけど、別れたいなんて言わない。もしそんなことがあっても、その前に嫌だって言うよ。と言うより、悠こそ、言いたいこといっぱいあるんじゃ……私、こそ」


子どもの頃とも、姉だった頃とも全然違う。
基本的な性格は同じでも、彼女としてはどうなんだろう。


「こんなに可愛い可愛い言ってるのに? あ、この話してたらあんまり言えてなかったもんね。可愛いし、大好き。絢に言いたいことはね」


――お願い、俺といて。


「異常かもしれない。少なくとも、まわりはそう言う。それでも、他の誰よりも絢を幸せにするから」


――俺を選んでください。どうか、お願いだから。







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