弟、お試し彼氏になる。
逃げないよ。
無言で悠の首に腕を回せば、ゆっくりと抱きしめられてもどかしい。
怖い顔をしていたのか、クスッと笑って頬を撫でられた。
「いろんなことが重なって今一緒にいれるんだから、運命かもね」
頭がおかしいとか、異常とか、もうそんなこと言ってほしくない。
それくらいなら、そんな恥ずかしい表現の方がずっといい。
「そんな、俺が幸せでしかない運命ってあるのかな。でも、もしあって、絢がそう思ってくれるなら」
――絢が、俺で幸せになる運命にしたい。
「俺が画策するとしたら、こうだね」
そうだよね。
悠は、私を不幸になんかしない。
お父さんの思い違いだ。
「また、とろんってしてる。絢、よく寝るね」
「なんか、安心しちゃっ……それに、こうしてると気持ちいい」
(……っ……)
いや、別に変な意味で言ったんじゃない。
くっついたのを嬉しそうな掠れた笑い声がして、そっと支えられて、もう片方の手で髪を梳かれる。
もちろんドキドキもするけど、最近になってようやく緊張が薄れてきた分、心地いい感覚が勝つようになってきた。
「俺も、絢を抱っこしてるだけで気持ちいいよ。そう思えるのは、男として側にいることを絢に許してもらえたから。弟としてのハグだったら、発狂してる」
「……こんなハグ、弟としません」
ハグと言っても全然違う。
今のこれは、そんな軽い表現にはとてもできないと思った。
「嬉しすぎて、混乱してる。でも、もしかしたら……俺が思ってる以上に、俺は絢に愛されてたんだなって。あ……ごめん。スルーしていいから……」
「しない。……上手く伝えられてなかったらごめん。姉でいたことを完全に忘れるのは無理だけど、悠がずっと好きだった。あの頃も、無理やり弟だと思おうとしてただけだったけど……男の人としての悠を知れて、もっと好きになった。その気持ちは、他の誰かに何を言われたって変わらないよ」
「弟だったから見てもらえない」
「弟だったから、情があるだけなんじゃ」
そう不安になるのも分かる。
私だって、同じことをずっと思ってた。
でも、悠が私より重症なのは、私が伝えきれていないせいだ。
「そんな顔しないで。本当は、ちゃんと伝わってるんだ。絢が俺を男として想ってくれてることは、誰より俺自身が分かってるはずなんだよ。俺と付き合うって決めてくれた時、キスを受け入れてくれた時……俺と寝てくれる時。躊躇うのは当然なのに、どれだけの愛情をくれるんだろうってどれも感激した」
「……うん。今回のことは、確かにびっくりした。でも、悠が好き。変わってない。それ証明していきたいから、不安になったら今度は画策する前に言って」
「了解。……ね、絢」
――証明、してくれる……?
頬を包まれて、自分の意思で目を瞑る。
小さく息を呑む音がしたのが不満で、手探りで見つけた悠の耳を緩く引っ張った。
笑い声、後、希望どおりのキス。
甘く丁寧で、優しいキスは、再び私の意識をどこかへ連れて行ってしまった。
・・・
「……運命、だって。可愛いすぎんだろ」
何か、悠が言ってる気がする。
「もう、全部運命にしちゃおっか。ね、いいよね。絢……好き……愛してるから」
今度は、もう少しはっきり聞こえた。
さっきのは独り言だったのかもしれない。
「やっと男として一緒にいれるんだ。何年かかったんだか……絶対、離さない。大事に大事に、可愛い可愛いってするから。ね、許してね」
そっとそっと、指先で撫でれられ、包まれる。
キスもまた再開して――ううん、終わってなかったのかも。
とにかく、心地ちよくて、ものすごく安心できた。
気配を感じても、目を閉じたままでいられる。
それって、これ以上ないほどの信頼と――愛だ。