弟、お試し彼氏になる。
お母さんとの顔合わせ(?)は、呆気ないほど上手くいった。
(……一体、何だったの……)
母は終始ご機嫌で、寧ろ悠を引き留めまくったせいでスムーズに終わらなかったと言ってもいいくらいだ。
『もー、絢ったら。悠くんのことが好きだったなんて、なんで相談してくれなかったの? 』
……と、きたもんだ。
そんなの、後に二人が離婚することを知ってたら、また違ったかもしれないけど。
まさか母親に弟が好きだなんて、言えるわけないに決まってる。
『俺がもっと押せればよかったんだ。でも、あの時は弟のままじゃダメだって、一旦引いちゃったから。まさか、絢も同じ気持ちだなんて思わなくて……ごめんね、絢』
後は、二人きりの時と同じ。
「可愛い」と「好き」を母の前でも浴びせてきて、母を大いに喜ばせていた。
……いや、もう一つあった。
『母さんには安心してもらえたら嬉しいんだけど……元・弟が、軽い気持ちで好きなんて言わないから』
――俺が結婚できるなら、相手は絢でしかあり得ない。
「……俺なら、一生をかけて、絢を大切にするよ」
・・・
とまあ、こんな調子で。
どんな魔法を使ったのか、この前お父さんと会った時とは別人のように母ははしゃいでいた。
いや、この魔法の正体は分かりきってるかも。
母だろうと何だろうと、女なら誰でもかかる魔法。
本気の悠に口説かれて、堕ちない女性はいないというか、そういうことのような気がする。
「何か拗ねてる? 」
帰宅して――もう、悠のスペースに戻ることがこの表現になってる――顔に出ていたのか、悠が上目遣いで私の顔色を窺ってきた。
「俺のこと、お母さんに紹介するの嫌だった……? …
…っ、や、待って。ごめんってば」
意地悪ににこっと笑って出ていく真似をすると、わりと本気で焦って追いかけてきてくれるから、ちょっと溜飲が下がる。
「ごめん。調子に乗りすぎた。だって……あんまり嬉しくて。彼女の家族にご挨拶、って。俺は経験できないことかもって思ってたから」
「悠は、もっと調子に乗っていいよ」
こんなに格好良くて、何でも器用にできるのに。
自己肯定感なんて言葉はあまり好きではないけど、悠はそんなに卑屈にならなきゃいけないような人じゃない。
「……お母さん、悠の話はちゃんと聞くんだなって思ってただけ」
「ヤキモチ? あー、俺が花なんか母さんに渡したからだ。なんだ……絢が可愛いだけか」
「い、意味分からないから」
別に、それで拗ねてるんじゃないけど。
でも、確かにそれでお母さんが一気に上機嫌になった感はある。
「ごめんね。そりゃ、母さんに花も渡すよ。懐柔しなくちゃだし。それにね、遅くなったけど……」
私の両肩を軽く掴んで、くるりと方向転換して。
向かった先の寝室にあったのは。
「もちろん、絢にもあるよ。ちなみに、これは俺が選んだ。気に入るといいんだけど」
(いつの間に……)
可愛いミニブーケ。
ピンクと白の混じった可愛い花束が、ベッドサイドテーブルに置かれていた。
「……ごめん。変な嫉妬して」
「嫉妬って認めちゃうんだ。心配……は、さすがにしてないと思うけど、まあ、愛想よくはなるよね。単に、俺の母親ってだけではないし。浮気じゃないから、見逃して」
もちろん、悠はお母さんのことも大切にしてくれてる。
でも、そこには「彼女の母親に気に入られる為」という、私たちの関係では本来必要ない理由も存在している。
「絢といる為だもん。何でもするよ。それに、母さんは俺にとっても母さんだしね。安心してくれたみたいでよかった」
昔――小さな悠は、どうしたんだろう。
今更詳しく聞くこともないけど、気になるのに聞けない。
きっと、昔も今と同じ、いつの間にか悠の虜だったんだろうな。
気づかないうちに、悠の内にいる。
それも、自分の希望で。