弟、お試し彼氏になる。






ドキドキして寝不足なんて、一体いつが最後だっただろう。
――なんて、本当は分かってる。
きっと、私が本気で誰かを好きになったのはあの一回だけだった。
もっと、自分の気持ちを通したかった。
素直になってしまいたかった。
甘えて、好きって言って、困らせるくらいくっついてもみたかった。

――それが、弟じゃなければ。


『俺、絢のことが好きだ。姉ちゃんなんて、呼べるわけねぇだろ』


初めて、「絢」って名前で呼ばれた日。
それまで「あんた」だったことは怒らなかったくせに、私は泣きそうになりながら精一杯笑って注意した。


『もう、お姉ちゃんって呼んでよ』


そう言って。
まさか、それが引き金になるとは思ってもいなくて――それを言うなら、こんなことになるとは想像もしていなかったのだ。

――まさか、両想いだったなんて。


『なんで? 俺たち、血なんか繋がってないだろ。親の都合で、同居することになっただけ』


それは、事実だった。
親同士が再婚したから、それぞれの連れ子だった私たちは一つ屋根の下で暮らすことになった。
両親が出逢わなければ、好きにならなければ、私たちはきっとすれ違っても分からないような他人のままだっただろう。

姉弟、としてでなければ、あり得なかった出逢い。


『血なんか関係なく、(はるか)は大事な弟だよ』


だから、そう言うしかなかった――と思う。
それで正解だったと、今でも思ってる。


『……それが、お前の答え? 』

『そ、そうだよ。……これが、答え』


答えは、間違っちゃいけない。
絶対に。


『……分かった』


――たとえ、どれだけ辛くたって。




・・・



(悠、元気かな)


それから少しして私たちは社会人になり、まるで待っていたかのように二人とも実家を出た。
きっと、悠は元気でキラキラした生活を送ってる。
私とは違ってどこに行っても人気者で、あの頃既に大人びた外見で格好良かった。
そんな悠が、どうして私を好きになったのか未だに謎のままだ。
血が繋がっていないとはいえ、姉ということを考えればそこだけハードルは高い。
何しろ私は、ずっと彼のことが好きだったから。
いきなりできた姉なんて、どう接していいのか分からないだろうに、悠はちょっとぶっきらぼうではあったけど優しかった。

同級生に道端でからかわれた時、庇ってくれたのも悠だった。
新しい家のどこにいていいのか分からなかった時、


『……戸惑ってんの、あんただけじゃないから』


そう言って一緒にソファに座ってくれたのも、悠。
不器用な優しさが、余計にふわりと伝わってきて嬉しくて――好きになるまで、あっという間だった。

そして、自分から終わらせてから、以降私は誰も好きになれない。








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