あなたが運命の番ですか?
「橘くん、水瀬たちと関わるのやめなよ」
 ある日、廊下で前園くんに呼び止められた。
 前園くんとは、佐伯と疎遠になって以来、顔を合わせていなかった。
 
「前園くんには関係ないことじゃん」
 僕は前園くんを無視して、その場を去ろうとする。
「俺は橘くんを心配してるんだよ。あんな奴らと付き合ってても、橘くんが傷つくだけだよ」
 それでもなお食い下がろうとする前園くんに、僕は苛立った。
 僕のことを心配?そんなの余計なお世話だ。

「何?もしかして、前園くんも僕とヤリたいの?」
「――は?」
 僕は嫌がらせのつもりで、前園くんを挑発した。すると案の定、前園くんは困惑の表情を浮かべる。
 
「前園くんって、結構ムッツリだよね?前から僕のことを厭らしい目で見て……。僕は全然構わないよ。いつがいい?何なら、次の授業をサボって、どこか人目のないところで――」
 僕はそんなふうに挑発しながら、前園くんの身体にすり寄る。
 すると、前園くんは真っ青な顔になり、見開いた目を僕に向けた。その表情には、あの時の佐伯と同じ、嫌悪が滲んでいた。
 
「やめろ!!!」
 前園くんは反射的に僕を突き飛ばし、その拍子に僕は壁に背中を強く打ち付けて「痛っ!?」と声を上げる。
 背中を打ち付けた時のドン!という音と僕の声に反応して、廊下にいた人たちが一斉に僕たちのほうを見た。
 
 そして、前園くんはハッと我に返ったような表情を浮かべる。
「ご、ごめん……。だいじょ――」
「おい!前園!何やってるんだ!?」
 オロオロとしている前園くんの元に、血相を変えた先生が駆け寄ってきた。

「いや、ちが――。そんな、強く押したつもりは……」
 背中の鈍い痛みに悶える僕と、冷や汗をかいている先生を、前園くんは交互に見ながら口ごもる。
 僕は背中を抑えながら、無言でその場を去ろうとした。
「あっ!待って、橘くん――」
 僕を呼び止めようとする前園くんを、僕はキッと睨みつけた。
「もう2度と、僕に話しかけてこないで!!!」
 それが、前園くんと最後に交わした言葉だ。

 たぶん、前園くんが1番正しかったのだと思う。
 僕との距離感も、水瀬たちと関わらないほうが良いと言ったことも、全部前園くんが正しかった。
 佐伯が前園くんと同じくらいの距離感で僕に接していたならば、僕は佐伯に対して変な期待も、邪な感情も抱かなかっただろう。
 そんなことはとっくに分かっていたのに、自暴自棄になった僕は前園くんに八つ当たりしてしまったのだ。
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