あなたが運命の番ですか?
 あれ以来、僕は春川さんを避けるようになった。
 春川さんに酷いことをしてしまったという負い目もあるが、彼女の何か言いたげな表情を見るのが耐えられないのだ。
 春川さんは、僕と星宮さんのことを心配しているようだが、僕はもう星宮さんには関わらないと決めた。

 僕はあれ以来、星宮さんと連絡を取っていないし、水瀬たちとも疎遠になった。
 久しぶりに味わう孤独感――。
 
 しかし、そんな孤独感よりも僕を悩ませているのが「身体の疼き」だった。
 処女を失ってからこんなにも長期間、誰ともセックスをしないのは初めてだ。だからなのか、毎晩のように僕の身体は疼いて仕方がない。
 
 あの脳を溶かすようなアルファのフェロモンを嗅ぎたい、アルファに激しく身体を貪られたい――。
 あんなことがあった後も、僕の身体は依然として性に執着し続けている。その事実が、僕の心をどんどん蝕んでいく。
 こんな身体、もう嫌だ……。

 これから、どうしよう……。
 僕は、東部長や春川さんと違って婚約者がいない。卒業した後、どうやって生きていこうか。
 やっぱり、風俗で働くしかないのかな……。でも、今までも似たようなことをしてきたし、今更僕に抵抗なんてないか。

「――橘くん!!!」

 校舎を出た瞬間、急に誰かに呼び止められて、僕は思わず足を止める。
 声のした方向を見ると、そこには――佐伯がいた。
 
「あ、あの……」
 佐伯は目を泳がせながら、まごつく。
 僕は告白して以来、佐伯とまともに会話をしていない。

 僕は口をモゴモゴさせる佐伯を無視して背を向け、立ち去ろうとする。
「あっ!待って!!!」
 その声に応じるように、僕は佐伯に背を向けたまま、再度立ち止まる。
 
「あ……、あの時は、ごめん!」
 佐伯のその言葉を聞いた瞬間、僕は寒気がした。
「俺、橘くんの気持ち、全然考えてなかった。それで、酷いことを言って……。ずっと謝りたいって思ってた。でも、勇気が出なくて……」
 
 佐伯の言葉を聞きながら、僕は怒りを覚えた。
 今更、何だよ……。なんで、お前だけ謝って許される気でいるんだよ。
 僕は喉まで出かかった言葉を飲み込む。
 
「本当に、ごめん。だから――」
「別に」
 僕は佐伯の言葉を遮る。
 
「別に、気にしてないよ。それに、僕はもう何とも思ってないから。あの時のことも、君のことも……」
 僕はそれだけを言い残して、振り返らずにその場を後にした。
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