あなたが運命の番ですか?
「先輩、午後から園芸部のほうに行かなきゃダメなんですよね?」
 アタシは抱きしめていた腕を解いてから、そう尋ねた。
「えっ?うん、そうだけど……」
「じゃあ、午前中は空いてるんですよね?だったら、今から模擬店で何か買って一緒に食べませんか?」
「えぇっ!?」
 橘先輩は目を見開き、素っとん狂な声を上げる。そして、続けざまに「でも、人がいっぱいいるし……」と口ごもり始めた。
 
「別に良いじゃないですか。アタシたち、()()()()()()んですから、人に見られたって平気ですよ。それに、何か言われたら、『恋人同士です』って答えれば良いんですよ」
「あっ、えっ……、そ、それはそうだけど……」
 それでもなお、橘先輩は不安げな表情を浮かべる。

「先輩、はい」
 アタシは橘先輩に左手を差し出す。
「手、繋ぎましょ」
「えっ!?」
 アタシの誘いに、橘先輩は顔を赤くして恥ずかしそうにモジモジし始める。
 
 アタシの記憶の中の橘先輩は、いつもどこか余裕があってアタシをリードしていたイメージがある。
 だけど、今の橘先輩は全く余裕がない様子で、何だか新鮮だ。正直、今のほうが可愛くて好きかもしれない。
 
「ほら、早く」
「……う、うん」
 アタシが催促すると、橘先輩はおずおずとアタシの左手に自身の右手を重ねる。
 アタシはすかさず、指を絡め合って恋人繋ぎをした。指を絡めた瞬間、橘先輩の手がビクッと震えた。

「行きましょうか」
「……うん、行こうか」
 橘先輩は恥ずかしそうに、だけど嬉しそうに口角を上げた。
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