あなたが運命の番ですか?
文化祭(寿々のお願い)
「あっ!――寿々ちゃん、寿々ちゃん」
女性客に袋詰めされたミニトマトを渡した直後、東部長が私の肩をトントンと叩く。
私が東部長の指差す先――部室の出入り口のほうを見ると、そこには優一郎くんがいた。
「優一郎くん!」
彼の姿を見た瞬間、私の胸は躍った。
「野菜、もうすぐ売り切れそうだね」
優一郎くんは、こちらに歩み寄って来る。
「うん。おかげさまで、大盛況。ミニトマトはラスト1袋で、キュウリはあと3本」
朝から主婦層の人たちが大勢やって来て、安価で売られている園芸部の野菜を次々と買って行った。元々用意していた数が多くなかったこともあり、まだ午前中だというのに、野菜は売り切れ寸前だ。
東部長曰く、園芸部の野菜は美味しい上に、スーパーで買うよりも安いため、毎年すぐに売り切れるそうだ。
「それは良かった。じゃあ、俺もミニトマトとキュウリ、1つずつ買おうかな」
「いいの?ありがとう!」
私は優一郎くんからお金を受け取り、代わりにミニトマトとキュウリを渡した。
「あの~、寿々ちゃん。私、ちょっとお手洗いに行ってくるから、店番頼んでもいい?」
東部長は、何やらニヤニヤとしながら、私に耳打ちする。
「えっ?別に、大丈夫ですけど」
「ほんとに?じゃあ、ちょっとの間、よろしくね」
東部長は外へと駆け出して行った。
もしかして、気を遣わせてしまったかな?
部室内は、いつの間にか優一郎くんと私の2人きりとなっていた。
「優一郎くん、昨日の舞台、とっても良かったよ。あんなに引き込まれる舞台、初めて観た」
昨夜も同じ内容のメッセージを優一郎くんに送ったが、私は改めて直接本人に口で伝えたくなった。
「ああ、ありがとう。何だか恥ずかしいな……」
優一郎くんは照れたように、襟足を掻く。
「優一郎くんのお芝居、初めて観たけど、想像よりもずっと上手でびっくりしちゃった。優一郎くんなら、役者さんとかにもなれるんじゃない?」
「あははっ、俺に役者は向かないよ。きっと役者に向いてる人っていうのは、星宮さんみたいな人のことを言うんじゃないかな?彼女みたいに演技力もあって、スター性もある人が役者として成功できるんだと思う。……でも、ありがとう。嬉しいよ」
優一郎くんは、柔らかな笑みを浮かべる。
「あっ、そうだ。さっき、星宮さんが――」
私は、優一郎くんの口から星宮さんの名前が出てきたことで、先ほどのことをふと思い出した。そして、星宮さんが橘先輩を探しに部室までやって来たことを、優一郎くんに伝える。
「そっか。星宮さんが橘くんを探して……」
「……あの2人、上手くいくかな?」
「きっと、大丈夫だよ」
そんな話をしていると、何やら窓の外がガヤガヤと騒がしくなり始めた。
「何だろう?」
私も、優一郎くんも外の様子が気になり、2人で窓に近づく。
窓からは、校庭の前に立ち並んでいる模擬店の様子が見える。
模擬店の列に並んでいたり、買った物を食べている人たちが何かに注目して騒いでいるようだ。
「――あっ!?」
みんなが注目する先、そこには焼きそばの列に並んでいる星宮さんと橘先輩の姿があった。しかも、2人は手を繋いでいる。
周囲は2人が親しげにしているのを見て、どよめいているようだ。
星宮さんはずっと楽しそうに、橘先輩を見つめながら何かを話している。
一方、橘先輩は恥ずかしそうに下を向いている。橘先輩はこちらに背を向けていて顔は見えないが、その背中には嬉しさが滲んでいるように見えた。
「ああ、良かった……」
2人の姿を見て、私は安堵で胸を撫で下ろし、同時に涙が零れた。
橘先輩、あなただって幸せになれるんですよ……。
「ほんとに、良かったね……」
優一郎くんも2人の様子を眺めながら、嬉しそうに呟く。
「そうだ、寿々ちゃん。俺が星宮さんへ吐いた嘘に、口裏を合わせてもらった件、寿々ちゃんにお礼をしたいんだけど、何がいいかな?」
優一郎くんの問いに、私は小首を傾げながら考え込む。
「うーん、お礼かぁ……」
「何でもいいよ」
何でもいい――。
私はハッと閃いた。
「じ、じゃあ……、私とデートして!」
私は閃いた勢いそのままに、言い放った。
すると、優一郎くんはキョトンとした顔で、しばらくフリーズする。
「で、でーと……?」
そして、ようやく私の言葉を飲み込んだのか、徐々に優一郎くんの顔が赤くなっていった。
女性客に袋詰めされたミニトマトを渡した直後、東部長が私の肩をトントンと叩く。
私が東部長の指差す先――部室の出入り口のほうを見ると、そこには優一郎くんがいた。
「優一郎くん!」
彼の姿を見た瞬間、私の胸は躍った。
「野菜、もうすぐ売り切れそうだね」
優一郎くんは、こちらに歩み寄って来る。
「うん。おかげさまで、大盛況。ミニトマトはラスト1袋で、キュウリはあと3本」
朝から主婦層の人たちが大勢やって来て、安価で売られている園芸部の野菜を次々と買って行った。元々用意していた数が多くなかったこともあり、まだ午前中だというのに、野菜は売り切れ寸前だ。
東部長曰く、園芸部の野菜は美味しい上に、スーパーで買うよりも安いため、毎年すぐに売り切れるそうだ。
「それは良かった。じゃあ、俺もミニトマトとキュウリ、1つずつ買おうかな」
「いいの?ありがとう!」
私は優一郎くんからお金を受け取り、代わりにミニトマトとキュウリを渡した。
「あの~、寿々ちゃん。私、ちょっとお手洗いに行ってくるから、店番頼んでもいい?」
東部長は、何やらニヤニヤとしながら、私に耳打ちする。
「えっ?別に、大丈夫ですけど」
「ほんとに?じゃあ、ちょっとの間、よろしくね」
東部長は外へと駆け出して行った。
もしかして、気を遣わせてしまったかな?
部室内は、いつの間にか優一郎くんと私の2人きりとなっていた。
「優一郎くん、昨日の舞台、とっても良かったよ。あんなに引き込まれる舞台、初めて観た」
昨夜も同じ内容のメッセージを優一郎くんに送ったが、私は改めて直接本人に口で伝えたくなった。
「ああ、ありがとう。何だか恥ずかしいな……」
優一郎くんは照れたように、襟足を掻く。
「優一郎くんのお芝居、初めて観たけど、想像よりもずっと上手でびっくりしちゃった。優一郎くんなら、役者さんとかにもなれるんじゃない?」
「あははっ、俺に役者は向かないよ。きっと役者に向いてる人っていうのは、星宮さんみたいな人のことを言うんじゃないかな?彼女みたいに演技力もあって、スター性もある人が役者として成功できるんだと思う。……でも、ありがとう。嬉しいよ」
優一郎くんは、柔らかな笑みを浮かべる。
「あっ、そうだ。さっき、星宮さんが――」
私は、優一郎くんの口から星宮さんの名前が出てきたことで、先ほどのことをふと思い出した。そして、星宮さんが橘先輩を探しに部室までやって来たことを、優一郎くんに伝える。
「そっか。星宮さんが橘くんを探して……」
「……あの2人、上手くいくかな?」
「きっと、大丈夫だよ」
そんな話をしていると、何やら窓の外がガヤガヤと騒がしくなり始めた。
「何だろう?」
私も、優一郎くんも外の様子が気になり、2人で窓に近づく。
窓からは、校庭の前に立ち並んでいる模擬店の様子が見える。
模擬店の列に並んでいたり、買った物を食べている人たちが何かに注目して騒いでいるようだ。
「――あっ!?」
みんなが注目する先、そこには焼きそばの列に並んでいる星宮さんと橘先輩の姿があった。しかも、2人は手を繋いでいる。
周囲は2人が親しげにしているのを見て、どよめいているようだ。
星宮さんはずっと楽しそうに、橘先輩を見つめながら何かを話している。
一方、橘先輩は恥ずかしそうに下を向いている。橘先輩はこちらに背を向けていて顔は見えないが、その背中には嬉しさが滲んでいるように見えた。
「ああ、良かった……」
2人の姿を見て、私は安堵で胸を撫で下ろし、同時に涙が零れた。
橘先輩、あなただって幸せになれるんですよ……。
「ほんとに、良かったね……」
優一郎くんも2人の様子を眺めながら、嬉しそうに呟く。
「そうだ、寿々ちゃん。俺が星宮さんへ吐いた嘘に、口裏を合わせてもらった件、寿々ちゃんにお礼をしたいんだけど、何がいいかな?」
優一郎くんの問いに、私は小首を傾げながら考え込む。
「うーん、お礼かぁ……」
「何でもいいよ」
何でもいい――。
私はハッと閃いた。
「じ、じゃあ……、私とデートして!」
私は閃いた勢いそのままに、言い放った。
すると、優一郎くんはキョトンとした顔で、しばらくフリーズする。
「で、でーと……?」
そして、ようやく私の言葉を飲み込んだのか、徐々に優一郎くんの顔が赤くなっていった。