あなたが運命の番ですか?
「さぁ、遠慮せず召し上がれ」
ママが満面の笑みを浮かべる先の食卓には、栗ご飯と天ぷらの盛り合わせ、豆腐と厚揚げのみそ汁が並べられている。
今日は、千尋くんとアタシたち家族の4人で、昼食を囲むことになっていた。
「母さん、俺の分の栗ご飯は?」
しかし、お兄ちゃんの前にだけ、少量の天ぷらとパックご飯が並べられている。
「あんたが急に帰ってくるなんて思わなかったから、4人分しか炊いてないの。帰ってくる時は、ちゃんと連絡しなさい。天ぷらだって、本当は4人前だったんだからね」
ママが睨みつけると、お兄ちゃんは肩をすぼめながら「すみませーん」と心のこもってない謝罪をする。
どうりで、千尋くんを除いた4人の各皿に盛られている天ぷらが少ないわけだ。
千尋くんの皿には、6つの天ぷらが盛られている。しかし、アタシと両親の皿に盛られている天ぷらは、5つだけ。そして、お兄ちゃんの皿には、3つしか乗せられていない。
「あの……、僕の天ぷらだけ、こんなに多くて良いんですか?」
千尋くんは恐る恐る尋ねる。
「いいの、いいの。千尋くんはお客さんなんだから、遠慮しないで」
ママは笑顔で返す。
「じ、じゃあ……、いただきます」
千尋くんは手を合わせてから、栗ご飯を一口食べる。
「……美味しい」
千尋くんは栗ご飯をジッと見つめながら、ポツリと一言零す。
「でしょー?」
千尋くんの言葉に機嫌を良くしたママは、「オホホホ」と口に手を当てて笑い始めた。
ママ、完全に浮かれてるなぁ。アタシが「彼氏を紹介したい」と言った時も上機嫌だった。
アタシは、さっきからずっと無言のパパのほうに目を向ける。
パパは怪訝な表情で、チラチラと千尋くんのことを見ている。
パパはママと違って、アタシが千尋くんを紹介する旨を伝えた時、あからさまに動揺していた。おそらく、娘が彼氏を家に連れてきた時の父親の典型的なリアクションだろう。
「2人って、同級生なの?」
天ぷらを頬張りながら、お兄ちゃんが尋ねる。
「いや、千尋くんは1個上の2年生だよ」
「へぇ、そうなんだ。じゃあ、お前らってどういう繋がりで知り合ったわけ?」
「え?繋がり?」
アタシは小首を傾げる。
「うん。同じ学校に通ってるって言っても、学年が違ったら接点なんてほとんどないだろ?確か宝月って、オメガは園芸部に集まるはずだから、部活は違うじゃん?だったら、どうやって知り合ったのかなって思って」
お兄ちゃんの質問に、アタシは思わず固まる。
確かに、よく考えてみれば、アタシたちの馴れ初めってどうやって説明すればいいんだ?まさかヒートになった千尋くんを、アタシが襲ったなんて言えるわけがない。
お兄ちゃんは相変わらず、変なところで鋭い人だ。
「えーっと」
アタシが答えに困っていると、目の前に並んでいる両親が気まずそうに顔を見合わせた。
このままじゃマズい。
「あっ、えっと……。ア、アタシが校内で見かけた千尋くんに一目惚れして、猛アタックしただけだよ」
アタシは苦し紛れに答えた。
「マジで!?お前、学校でナンパしたのかよ。ヤンチャだなぁ」
お兄ちゃんはケラケラと笑う。
「ナ、ナンパだなんて、人聞きが悪いなぁ」
アタシはそう言ってむくれてみせたが、内心は「まだナンパのほうがマシだったかも」と思っていた。
「すごいなぁ。俺はベータだからよく分かんないけど、やっぱりアルファとオメガって、こう『ビビビッ』ときたりするもんなの?」
「ビビビ……、うーん、そうなのかなぁ?」
お兄ちゃんが言っているのは、おそらく「運命の番」のことだろう。
アタシは歯切れの悪い返事をしたが、お兄ちゃんは「なるほどなぁ」と納得した様子だ。
ママが満面の笑みを浮かべる先の食卓には、栗ご飯と天ぷらの盛り合わせ、豆腐と厚揚げのみそ汁が並べられている。
今日は、千尋くんとアタシたち家族の4人で、昼食を囲むことになっていた。
「母さん、俺の分の栗ご飯は?」
しかし、お兄ちゃんの前にだけ、少量の天ぷらとパックご飯が並べられている。
「あんたが急に帰ってくるなんて思わなかったから、4人分しか炊いてないの。帰ってくる時は、ちゃんと連絡しなさい。天ぷらだって、本当は4人前だったんだからね」
ママが睨みつけると、お兄ちゃんは肩をすぼめながら「すみませーん」と心のこもってない謝罪をする。
どうりで、千尋くんを除いた4人の各皿に盛られている天ぷらが少ないわけだ。
千尋くんの皿には、6つの天ぷらが盛られている。しかし、アタシと両親の皿に盛られている天ぷらは、5つだけ。そして、お兄ちゃんの皿には、3つしか乗せられていない。
「あの……、僕の天ぷらだけ、こんなに多くて良いんですか?」
千尋くんは恐る恐る尋ねる。
「いいの、いいの。千尋くんはお客さんなんだから、遠慮しないで」
ママは笑顔で返す。
「じ、じゃあ……、いただきます」
千尋くんは手を合わせてから、栗ご飯を一口食べる。
「……美味しい」
千尋くんは栗ご飯をジッと見つめながら、ポツリと一言零す。
「でしょー?」
千尋くんの言葉に機嫌を良くしたママは、「オホホホ」と口に手を当てて笑い始めた。
ママ、完全に浮かれてるなぁ。アタシが「彼氏を紹介したい」と言った時も上機嫌だった。
アタシは、さっきからずっと無言のパパのほうに目を向ける。
パパは怪訝な表情で、チラチラと千尋くんのことを見ている。
パパはママと違って、アタシが千尋くんを紹介する旨を伝えた時、あからさまに動揺していた。おそらく、娘が彼氏を家に連れてきた時の父親の典型的なリアクションだろう。
「2人って、同級生なの?」
天ぷらを頬張りながら、お兄ちゃんが尋ねる。
「いや、千尋くんは1個上の2年生だよ」
「へぇ、そうなんだ。じゃあ、お前らってどういう繋がりで知り合ったわけ?」
「え?繋がり?」
アタシは小首を傾げる。
「うん。同じ学校に通ってるって言っても、学年が違ったら接点なんてほとんどないだろ?確か宝月って、オメガは園芸部に集まるはずだから、部活は違うじゃん?だったら、どうやって知り合ったのかなって思って」
お兄ちゃんの質問に、アタシは思わず固まる。
確かに、よく考えてみれば、アタシたちの馴れ初めってどうやって説明すればいいんだ?まさかヒートになった千尋くんを、アタシが襲ったなんて言えるわけがない。
お兄ちゃんは相変わらず、変なところで鋭い人だ。
「えーっと」
アタシが答えに困っていると、目の前に並んでいる両親が気まずそうに顔を見合わせた。
このままじゃマズい。
「あっ、えっと……。ア、アタシが校内で見かけた千尋くんに一目惚れして、猛アタックしただけだよ」
アタシは苦し紛れに答えた。
「マジで!?お前、学校でナンパしたのかよ。ヤンチャだなぁ」
お兄ちゃんはケラケラと笑う。
「ナ、ナンパだなんて、人聞きが悪いなぁ」
アタシはそう言ってむくれてみせたが、内心は「まだナンパのほうがマシだったかも」と思っていた。
「すごいなぁ。俺はベータだからよく分かんないけど、やっぱりアルファとオメガって、こう『ビビビッ』ときたりするもんなの?」
「ビビビ……、うーん、そうなのかなぁ?」
お兄ちゃんが言っているのは、おそらく「運命の番」のことだろう。
アタシは歯切れの悪い返事をしたが、お兄ちゃんは「なるほどなぁ」と納得した様子だ。