あなたが運命の番ですか?

はじめまして

 お互いに身支度を整え、アタシの帰る準備が済むと、橘先輩は自室とダイニングキッチンを隔てる引き戸を開けた。
「――えっ!?」
 すると、視界に予想外な光景が飛び込んできて、アタシは面食らう。
 目の前には、ダイニングテーブルの上に顔を伏せて寝ている女性がいた。
 
 えっ!?なんで!?
 一体いつからそこにいたの?
 っていうか、もしかして、声聞こえてたんじゃ……。

 さまざまな疑問と不安で頭が混乱する。
 テーブルの上には、ビールの空き缶が4本ほど転がっており、女性が長時間ここにいたことが伺える。

「うーん」
 すると、女性は突然唸り声を上げながら、ゆっくりと上体を起こし始めた。
「……帰ってたんだ」
 橘先輩がため息交じりに話す。
「……お友達ぃ?」
 女性は眉間を抑えながら、酒焼けの声で問いかける。
「後輩だよ」
「ふーん」

 2人のやり取りは、あまりにもあっけらかんとしていて不気味だ。
 アタシたちが先ほどまでしていた行為、そしてその最中に1枚の薄い引き戸を隔てた先にこの女性がいたとすれば、もっと気まずい空気になるはずだ。
 それなのに、2人はさも当たり前のように会話している。
 
 異様な光景に愕然としていると、女性が頬杖を突きながらアタシに視線を向けてきた。
 その時、アタシは初めて女性の顔をちゃんと見た。
 女性はおそらく30代半ばくらいで、ウェーブのかかった長い茶髪に、やたらと派手なメイクをしている。
 そして、首には橘先輩と同じ黒い()()()()()()()()が付いていた。

「これからも()()と仲良くしてね」
 女性は冷ややかな視線をアタシに向けながら、ニタァと不気味に笑う。
 アタシはそれに何と返せばいいのか分からず、「あはは」と苦笑いしてしまった。
「ほら、早く玄関に行って」
 橘先輩に急かされて、アタシたちは玄関へ向かう。

 アタシたちは一緒に外へ出る。すると、橘先輩は玄関を閉めて扉にもたれ掛かりながら、大きくため息を吐いた。
「ごめんね。さっきのは気にしなくていいから」
「は、はぁ……」
 先輩の言う「さっきの」って、さっきの女性のことを指しているだろうか。
 疲弊したような橘先輩の表情を見て、「さっきの人はお母さんですか?」なんて聞けるはずもない。

「もう暗いし、さっさと帰りなよ」
 先輩の言う通り、辺りはすっかり暗くなっていた。
「あぁ、はい。……お邪魔しました」
「うん、じゃあね」
 橘先輩は淡白に切り上げると、扉を開けて中に戻ろうとする。
 
「……あ、そうだ」
 すると、何かを思い出したかのように、橘先輩はアタシのほうを再度見る。

「――名前、何ていうの?」
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