【改訂版】ぺちゃんこ地味系OLだけど水曜日の夜はびしょぬれ

ハイスペック


 好きになった男性が恋人でもある桃瀬の日常は、幸福感に満たされていたが、石和とのベッドインにおいて、積極的に受けいれようとするあまり、恥ずかしい思いばかりした。さらに、ぬれやすい体質に無自覚だったので、生理的特徴を認めせざるを得ない現状に困惑した。……わたし、エッチなからだしてるってこと? こんな貧相な見た目で、どういう理屈なのよ〜……(浅学なのも悩ましい)。

 昨夜、望まれるかたちで桃瀬を抱いた石和は、受け身の本人が快楽に弱い体質を把握しているとは思えなかった。恋人に対して、一方的に激しく肉体をむさぼるようなベッドインは言語道断である。したがって、なるべく丁寧にゆっくり、時間をかけて肌を重ねた。


「やっぱり、こっちにしようかな」


 翌日の朝、デートに誘われた桃瀬は、着ていく洋服に迷ってしまい、予定時刻より五分ほど遅れ、バタバタと駐車場に駆けつけた。

 石和はニットに薄手のジャケットという、スレンダーに見えて胸板の厚みが男らしいコーディネートである。カジュアルシューズは本革仕様で、爽やかな紳士といった印象をあたえた。いっぽう、私服のバリエーションが乏しい桃瀬は、カットソーにロングスカートという、ボディラインがぼやける恰好だ。アクセントにネックレスをつければ(胸の大きさに関係なく)おしゃれを演出できたが、そんなセンスはない。……石和さんの私服、すごくカッコいいな。ファッションにも無駄がないなんて、いつも完璧すぎる~!(こっそり身悶える)

「理乃ちゃん、どうかした?」

「すみません、お待たせしました」

「あわてなくていいよ。ぼくは、恋人を待つ時間も愉しむタイプだからね」

「そうなんですか……?」

「うん。焦らされたぶん、あとで存分に取りかえす愉しみが増える」

「取りかえす? どうやって……」

「こうやってかな」

 助手席のドアをあける石和は、迂闊(うかつ)に首をかしげる桃瀬に顔を近づけ、軽く口づけた。……ミントの味がする。これ、石和さんが使ってる歯磨き粉のにおいかな……。などと、石和の気息を心地よく感じる桃瀬は、じわじわと躰が熱くなった。内股になって助手席に坐る桃瀬を見た石和は、ほんの少し眉をひそめた。……理乃ちゃん、いまので感じたのか? ……たまらないな。アウトとセーフの条件を見極める側の石和は、(かす)かに苦笑した。運転席にまわり、シートベルトをつけると、周囲の安全を確認してアクセルを踏む。安定した速度で車を走らせ、いくつかの信号を曲がったあと、助手席の桃瀬に声をかけた。


「どこも、おかしなところはない?」


 ぼんやり車窓をみつめていた桃瀬は、ふいに(たず)ねられ、運転席をふり向いた。4WDの車は一方通行の小径(こみち)を低速で走っていたが、石和はハザードランプを点滅させて路肩に寄せた。助手席の桃瀬を気づかい、健康状態を確認する。


「きのうのきみはとても愛らしかったけれど、ベッドの上であれほど懸命なのは、ぼくが原因だろうからね。理乃ちゃの健康状態に問題はないと思うが、心に余裕がなければ、なにかと窮屈だろう」

「わたし、そんなに必死でしたか? ごめんなさい、恥ずかしいです……(でも、石和さんが本気をだしたら、もっとすごいんだよね?)」

「あやまらないでくれ。理乃ちゃんの熱意が伝わってきて、すごくうれしかったんだ」

「石和さん……?」

「ぼくはね、どうしようもなくきみのことが好きなんだ。これからも、ぼくのそばにいてくれるかい?」

「も、もちろんです。わたしも、ずっと石和さんのそばにいたいです……」

 あらためて想いを確かめあったふたりは、まぶたを閉じて唇を重ねた。石和が車を走らせる先に、なにが待っているのか。熱い吐息を交わす桃瀬は、なにも考えられなかった。


✦つづく
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