※修正予定あり【ぺちゃんこ地味系OLだけど水曜日の夜はびしょぬれ〜イケおじの溺愛がとまらない!?〜】

ハイスペック


 好きになった男性が、始めての恋人である桃瀬(ももせ)の日常は、かつてない幸福感に満ちていたが、心身ともに石和(いさわ)と気持ちよくなれるベッドインにおいて、積極的に受けいれようとするあまり、性的刺激による分泌液が恥ずかしいという心境は、かなり複雑だった。いわゆる、ぬれやすい体質の桃瀬は、生理的特徴を認めせざるを得ない。……わたし、エッチなからだしてるってこと? 変な誤解されたら、いやだな……。こんな貧相な見た目で、ぬれやすいなんて、どういう理屈なの〜……(浅学なのも悩ましい)。

 昨夜、望まれるかたちで桃瀬を抱いた石和は、受け身の反応をみて充実度を判断していく必要があった。桃瀬は男性との経験がない処女という事実があり、痛みに敏感で、本人が快楽に弱い体質を把握しているとは思えなかった。恋人に対して、一方的なセックスは言語道断である。やや酔いがまわっていた桃瀬は、石和から享受される感覚に途惑いつつも、濃密な夜を初めて経験した。


「やっぱりこっちにしようかな……」


 ベッドイン後の翌日、デートに誘われた桃瀬は、着ていく洋服に迷ってしまい、予定時刻より五分ほど遅れ、バタバタと駐車場に駆けつけた。

 石和はニットに薄手のジャケットという、スレンダーに見えて胸板の厚みが男らしいコーディネートである。カジュアルシューズは本革仕様で、爽やかな紳士といった印象をあたえた。いっぽう、私服のバリエーションが乏しい桃瀬は、カットソーにロングスカートという、ボディラインがぼやける恰好だ。アクセントにネックレスをつければ(胸の大きさに関係なく)おしゃれを演出できたが、そんなセンスはない。……石和さんの私服、いつもカッコいいな。ファッションにも無駄がないなんて完璧すぎる。……う~っ!(こっそり身悶える)

「理乃ちゃん、どうかした?」

「え? いえ! すみません、お待たせしました」

「あわてなくていいよ。ぼくは、恋人を待つ時間も愉しむタイプだからね」

「そう……なんですか?」

「うん。焦らされたぶん、あとで存分に取りかえす愉しみが増える」

「取りかえす? どうやって……」

「こうやってかな」

 助手席のドアをあける石和は、迂闊(うかつ)に首をかしげる桃瀬に顔を近づけ、軽く口づけた。……ミントの味がする。これ、石和さんが使ってる歯磨き粉のにおいかな……。などと、石和の気息を心地よく感じる桃瀬は、じわっと、躰が熱くなる。……えっ!? わたし、キスだけでぬれちゃうの……!? 内股になって助手席に坐る桃瀬を見た石和は、ほんの少し眉をひそめた。……理乃ちゃん、いまので感じたのか? ……たまらないな。アウトとセーフの条件を見極める側の石和は、(かす)かに苦笑した。運転席へまわり、シートベルトをつけると、周囲の安全を確認してアクセルを踏む。安定した速度で車を走らせ、いくつかの信号を曲がったあと、助手席の桃瀬に声をかけた。


「躰におかしなところはない?」


 ぼんやり車窓をみつめていた桃瀬は、ふいに(たず)ねられ、運転席をふり向いた。4WDの車は一方通行の小径(こみち)を低速で走っていたが、石和はハザードランプを点滅させて路肩に寄せた。助手席の桃瀬を気づかい、健康状態を確認する。


「きのうのきみはとても愛らしかったけれど、ベッドの上で懸命なのは、ぼくが原因だろう。理乃ちゃんとぼくの相性に問題はないと思うが、心に余裕がなければ、なにかと窮屈だ」

「わたしってば、そんなに必死でしたか? は、恥ずかしいです……(でも、石和さんが本気をだしたら、もっとすごいんだよね)」

「あやまらないでくれ。理乃ちゃんの熱意が伝わってきて、ぼくはすごくうれしかったよ」

「い、石和さん?」

「ぼくは、どうしようもなくきみのことが好きなんだ。これからも、ぼくのそばにいてくれるかい?」

「も、もちろんです。わたしも、ずっと、石和さんのそばにいたいです」

 想いを確かめあったふたりは、まぶたを閉じて唇を重ねた。石和が車を走らせる先に、なにが待っているのか。熱い吐息を交わすディープキスで頭がクラクラする桃瀬は、なにも考えられなかった。


✦つづく
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