※修正予定あり【ぺちゃんこ地味系OLだけど水曜日の夜はびしょぬれ〜イケおじの溺愛がとまらない!?〜】
ファミリー
多感な年齢であっても、容姿に引け目を感じる桃瀬は、分不相応な下着や雑貨を買って、寂しさをまぎらわせていた。アパートの部屋には、石和の知らない秘事が隠してあり、サイズの合わないブランド品のブラジャーについては、黙認されている。
宝飾店でペアリングをプレゼントされた桃瀬は、落ちつかない気分で右手の薬指をながめ、無意識に深い溜め息を吐いた。……ピカピカしてる。指輪をつけただけなのに、なんだかじぶんの手じゃないみたい。プラチナって云ってたっけ。すごく高いんだろうなぁ……。
車を運転する石和の右手にも、おそろいの指輪がキラリと光る。まるでプロポーズされたかのような気分に浸る桃瀬は、穴のあくほど横顔を見つめた。進行方向の信号機が赤に変わり、ブレーキを踏んで停止する石和は、前を向いたまま、「そんなにじっくり見られると、さすがに照れてしまうな」と苦笑いした。いくらか高揚中の桃瀬は、「石和さんは狡いです」と、めずらしく会話を掘り下げた。「狡い? ぼくが?」意外な切り口につき、石和のほうで首をかしげた。信号機が青に変わり、ふたたび、ゆっくり走りだす。
「こんな贈物をされたら、女の子は期待しちゃうから……」
「期待していいよ」
「……なにを」
「お望みならば、なんでも。ぼくは、どんな手段を使ってでも、きみの期待に応えたいと思う」
「ず、狡いです。そんなの、狡いですってば~」
赤面しながら反論する桃瀬をよそに、目的地が近づくにつれ、石和の表情は少し硬くなった。ペアリングに心を掻き乱される桃瀬は、石和の心情を見ぬけるはずもなく、じわじわ熱くなる躰を意識して、唇を結んだ。……さっきからずっと、夢みたい……。
パワーウインドウを下げて外気を浴びる桃瀬は、十字路の角に立つ、石和設計事務所というプレート看板を見落とした。
石和の本業は、中小企業向けのオフィスアドバイザーである。移転やリニューアルにともなう課題の分析、環境改善のための機能面や効率を提案し、経営陣に専門的なアドバイスを提供する。特定の分野に精通しているため、ときには過分な労働も発生するが、助言や指導の延長に割増は要求しない。柔軟性と臨機応変な対応力が必要とされるうえ、責任感をもって他者をサポートしなければならない。
曾祖父の代からつづく設計事務所は、現在、一級建築士である石和の父と、二級建築士の叔父が共同経営していた。石和は主に外まわりを担当している。
プレハブ小屋のような外観で、すっきりとした内装の事務所に、石和とよく似た顔立ちの男がふたり、ファイルや書類を手にして桃瀬をふり向いた。
「貴之くんじゃないか、どうした? きょうは休みのはずだろう」
最初に声を発したのは、叔父の貴広である。シャツの衿を開襟にして、長袖をフック式の金具で留めている。わざと着崩した恰好はエキセントリックで、粋な印象をあたえた。「そちらの女性は?」追って口をひらいたのは、石和の父で、貴士という。オーダーメイドのスーツをスタイリッシュに着こなしている。……か、顔がよすぎる……だけじゃない……! なに、このイケおじさんたちは!?
絶句する桃瀬に、石和が家族だと紹介した。さらに、奥の扉から従兄弟の貴也(たかや)が登場し、桃瀬の頭は混乱した。……待って、待って! 情報整理が追いつかない……! ここはどこなの? めちゃくちゃイケメンばっかりだ~っ。
「みんな、ぼくの大事な女性を紹介するよ。桃瀬理乃ちゃん、二十歳だ」
「いま、いくつって云った?」と、真っ先に反応をしめしたのは叔父である。つづけて従兄弟で二十代の貴也が「へえ」といって、桃瀬の顔をじろじろ見た。
「貴兄って、こんな地味系が好みなんだ? どうりで、選び放題なのに、ちっとも靡かないわけだ」
プシューッと、顔から烟がでる錯覚にとらわれる桃瀬は、立ち眩みがした。石和が、桃瀬を家族経営の事務所に連れてきた理由はふたつある。ひとつは父に恋人の存在を報せること、もうひとつは……。
✦つづく