貴方が結ぶ二重螺旋  ~鋼鉄の敏腕弁護士は遺伝子レベルで彼女を愛す~
 彼女はまるで理想の母親だった。息子である迅との仲も良いようで、羨ましい。
 なんども夢に見た。英里子が姉と差別することなく優しく、姉と仲良くすごすのを。父がただいま、と帰って来てみんなでお帰りと迎えて食卓を囲むのを。

 だが、実際には父は仕事ばかりでろくに家に寄りつかず、母と姉は自分をのけものにしている。
 迅は無表情で感情を読みにくいが、すぐに彼の優しさに気付いた。

 迅は事務所の近くでひとり暮らしだが、今はこの家から仕事に通っている。朝は早く、夜は遅い。それでも百合花の様子を見るためにここにいるという。百合花にかける言葉はいつも彼女を気遣うものばかりだ。

 百合花は思いのほかふたりに早く馴染んだ。
 英里子とららかからは怒涛のごとく連絡があったが、迅の指示で無視している。ブロックはしてない。証拠をとるためにブロックしないほうがいい、と言われたからだ。
 ちょっとだけ覗いてみたが、百合花を激しく罵り、早く帰れと催促する連絡ばかりだった。

 一週間もすると英里子やららかのいない平和に慣れて、人間の順応性の高さに驚かされた。
 だがやはり、なにも貢献していないのに贅沢な日々を享受することに抵抗があった。
 だからある日の夕食後、リビングでくつろいでいるときに思い切って春子に申し出た。

「いつもありがとうございます。でも、なにもせずにお邪魔して申し訳ございません」
「いいのよ。あなたは迅が連れて来たのですもの、特別なのよ」
 春子はにこにことそう答える。

「でも、申し訳なくて。ですから家政婦として雇ってください。住まわせていただければお給料はいりません!」
 すでに通いの家政婦はひとりいる。彼女をクビにされたくないし、出費を増やさせたくはない。だからそう申し出たのだが。
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