貴方が結ぶ二重螺旋  ~鋼鉄の敏腕弁護士は遺伝子レベルで彼女を愛す~
「嫌よ」
 春子はにこにこと即答し、百合花は驚愕にひきつった。
 春子はいつも優しい。だからきっと雇ってくれると思っていた。
 絶望した百合花は言葉を続けることができない。
 いつの間にか甘えていたのだと悟った。だから雇ってもらえるなんて夢を見てしまったのだ。

「あのね」
 春子が言いかけたとき。
「ただいま」
 迅が入って来て、春子の言葉は途切れた。

「あら、今日もこちらに帰って来たの」
「ずいぶんな言いようだな」
 迅がネクタイをゆるめながら言う。

「前まで寄り付きもしなかったじゃない。百合花さんが来てからすっかりこっちの住人みたいに帰って来るんだもの」
「俺が助けると言ったんだ。責任があるだろ」
 責任、と百合花は心の中で繰り返してうつむく。

 そうだ、彼は善意から助けてくれただけだ。なのに、どうして自分は浮かれてしまったのだろう。迅や春子と疑似家族のように過ごして、このまま家族になれる錯覚すら持っていた気がする。

「お世話をおかけして、申しわけありません」
 しょんぼりと言う百合花に、迅は目を細める。

「気にするな。俺がしたくてやっていることだ」
 優しい言葉が切なくて、百合花は胸を押さえた。
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