貴方が結ぶ二重螺旋 ~鋼鉄の敏腕弁護士は遺伝子レベルで彼女を愛す~
***
翌朝、勤務先の猫鳥弁護士事務所に到着した迅は、いつも通りにビルの中に入った。
都心の一等地に建つ高層ビルの十フロアほどを猫鳥弁護士事務所が占有している。
猫鳥弁護士事務所は六百人ほどの弁護士を抱える日本最大手の事務所だ。支所は国内の主要都市のみならずニューヨークや上海など海外にもちらばり、様々な案件をカバーしている。
猫鳥はフクロウの異名だ。フクロウは森の哲学者と言われており、ギリシャ神話では戦いと知恵の女神アテナが従えている。日本でも縁起物であるところから事務所の名前に使ったそうだが、素直にフクロウにすればいいのに、と迅は思う。
実家から通うには遠い。だが、百合花が気になるので遠距離での通勤を続けていた。
彼は企業法務を担当していて、その成果から個室をもらっている。
デスクについてパソコンを立ち上げ、メールをチェックする。
調査会社からの報告がメールで届いていた。調査対象は百合花とららかだ。
境遇の実態は、彼女が語るよりもひどかった。隠していても近所には知れ渡っており、奴隷を超えて虐待だと眉をひそめて語られたという。あえて雪の日に洗車を命じられたり、雨の日に庭の掃除を言いつけられたり。父親は見て見ぬふりで消極的な虐待者だ。
迅の印象では、被害者が冷静に事実を語ることは少ない。被害感情が強ければ被害を大袈裟に語るものだし、庇いたい気持ちがあれば小さく語る。
百合花は虐待ではなく嫌われているという言い方をしていた。長年の虐待は精神をむしばんでいるはずなのに。被害を割り引いて話すのは彼女の優しさにも起因するのだろうが、家族の枠から抜け出せずに庇う素振りを見せるのが痛々しい。