貴方が結ぶ二重螺旋  ~鋼鉄の敏腕弁護士は遺伝子レベルで彼女を愛す~
 玄関を上がってすらいないのに、と彼はうんざりした。
 英里子は顔を合わせれば文句ばかり、ららかは口をひらけばおねだりばかり、ここにいない百合花はおどおどして目を合わせようともしない。

「どうもこうもない。次男本人から電話が来た。これで少しは会社に有利になる」
 靴をぬぎながら彼は答える。

「あなたはいつも会社のことばっかり!」
 英里子の怒声に、啓一は白い目を向けた。

「その会社で稼いだ金でお前は暮らしているんだ。家事もせずぬくぬくとな」
 最近まで百合花が家事をしていたというが、いなくなったためにまた家政婦を雇った。家が以前よりくすんで見えるのは家事のレベルが違うせいだろうか。ふとみた廊下の隅には埃がたまっている。

「ららかがかわいくないの!? ららかに来たお見合いだったのに!」
「そうよ、私が結婚するはずだったのよ!?」
 ららかが文句を言う。

「ミソラグループとつながれるならどっちでもいい。俺は疲れている。くだらないことで時間をとらすな」
 言いおいて、啓一は自室へと入っていく。
 英里子は怒りに目を吊り上げて閉まる扉をにらみつけた。

「ママ、ひどいわ……」
 ららかは鳴きそうな顔で母親に泣きつく。が、その胸にたぎるのは百合花への怒りだ。泣きそうな顔をしたのはそのほうが英里子の同情を引けるからにすぎない。

「そうよね、許さないわ……」
 憎悪のこもる英里子の呟きは、薄暗い廊下に静かに響いた。
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