パパになった航空自衛官は強がり双子ママに一途な愛をわからせたい
 伊澄さんは真剣な顔で私に告げると、コーヒーを飲み干し「ごちそう様でした」と黒木さんに告げる。
 それから私の頬にキスを落とすと、にこりと微笑み去っていった。

 嵐のような、束の間の逢瀬。
 もちろん、嬉しくなかったわけじゃない。頬は火照るし、鼓動は高鳴り続けている。

 だけど、胸にある靄はどんどん厚い雲になってしまう。
 私は彼の唇が触れた頬に手を置きながら、俯いてしまった。

 彼はそれを伝えるためだけに、会えるかどうかも分からないのに、わざわざ来てくれた。
 メッセージや電話でも済むにもかかわらず、そうせずに来てくれた。

 忙しい彼に、無理をしてほしくないのに。

「せっかく会えたのに、浮かない顔ね」

 黒木さんがそう言って、私の顔を覗いた。

「悩みがあるなら聞くわよ。どうせ今、お客さんだーれもいないし」

 思わず視線を伏せた私に、黒木さんがおどけるようにそう言う。そんな彼女の笑みは、雨模様の心に少しの光を差す。
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