DEAR 2nd 〜Life〜
「───…あ!!!!
っていうかバイト!!!!」
突如ハッと現実に引き戻され、腕時計を見てみるみるうちに顔色が変わっていく。
───ヤバい!
このままじゃ遅刻しちゃう!!!!
────バンっ!
急いでローファーに履き替え、靴箱を閉めて猛ダッシュを始めた。
「あぁ~つぅい~……!!!」
───ううっ。
呑気に先生とアルバム見たり、朝岡さんと喋ったりするからだ……。
────…ジリジリ……。
肌に刺すような夏の日射しが痛いくらい暑い。
あたしはそんな夏真っ盛りの気候の中を、時計を何回も見ながらバイト先へと向かった。
……“バイト先”とは言っても、以前にナナと二人で働いていたカフェとは違うところ。
───あの事件……
いや、タイチさんにラブホに連れられそうになった日を境に、もうあのカフェは辞めてしまった。
………当然だと思う。
たとえタイチさんに謝られようが信用なんか出来ないし。
───それに……。
きっとタイチさんを見るたびに、浅はかな行動を取ってしまった自分を思い出してしまうし。
きっと……
ずっとずっと胸が痛むだろうし───……。
「───…はぁっ、はぁっ………。
つ、着いたぁぁぁ~……!」
螺旋状の階段を昇り、何とか乱れた息を落ち着かせる。
炎天下の中を猛ダッシュして来たもんだから、とにかくハンパなく暑い。
「……たっタオル……。」
中に入る前に、流れる汗を拭き取ろうとカバンからタオルを取り出した時だった。
────…カチャ…
「────…あら!
────彩ちゃん!」
「よっ、陽子さん~…!
遅くなってごめんなさい~…。」
開けようとしたドアが先に開き、中から“陽子さん”が顔を覗かせた。
「いいのよ、彩ちゃん今日ちょっと遅かったから、来る途中で事故にでも遭ったのかって心配しちゃって……。
それより、暑かったでしょう?さぁ、どうぞ。」
陽子さんがにこっと笑い、中へと誘導してくれる。
「ありがとうございます~。わっ涼しい!」
───…パタン。
あたしは中から流れる涼しい風を感じ、
“いぶき歯科”と書かれたドアをそっと閉めた。