契約の愛で結ばれたのは、まさかの敏腕CEO!?~独占欲滾るスパダリは極上溺愛で囲い離さない~
 その日の帰り道、茉莉花は背中を丸めてとぼとぼと歩いていた。

「はぁ……アパートは見つからないし、仕事はいっぱい押しつけられるし……」

 深いため息とともに独り言が漏れる。
 ふと前を向くと、少し前まで見慣れていた並木道が目の前にあった。

(あ、この道通るの久しぶりだ。最近はずっと颯馬さんに送迎してもらっていたから……。前はここを通るのが好きだったな。葉っぱが風に揺れている音が心地良いんだよね)

 前まで当たり前だった通勤路の風景が、少し新鮮に見える。

 気分転換には悪くない。
 そう思った茉莉花は、姿勢を正して歩みを速める。



「あれ?」

 ふと横目に見知った顔が映った気がした。
 振り返ると、反対側の道路に見慣れた青色の車が停まっている。

「颯馬さん?」

 茉莉花の心臓がドクンと高鳴る。
 よく見ると、車の前に颯馬が立っている。

 迎えに来てくれたのだろうか。
 声をかけようか。
 少しだけ悩んでいると、颯馬がふと顔を上げた。

 彼は何かを見つめている。


「え、どうして……」

 彼の視線の先、そこには、優香がにこやかに手を振っていたのだ。

 二人は挨拶を交わすと颯馬の車に乗り込んで、そのまま発車していった。

 茉莉花は小さくなっていく青い車をただじっと眺めていた。

(優香と颯馬さん……並んでるだけで綺麗だった。やっぱり颯馬さんには優香みたいな美人でお金持ちな女性が似合ってるのかも)

 頭の中で二人が微笑み合っている映像がぐるぐると流れ続ける。

「少しの間だけ、夢を見られたんだもの。それだけで十分よ」

 綺麗事を口に出してみたけれど、その声は小さく震えていた。

 茉莉花は何も考えず、足早にその場を立ち去った。



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