俺様同期の執着愛
【綾芽のターン】

 私は本当に純粋にお寿司を食べに行くんだと思って柚葵の仕事が上がるのを待った。駅前のカフェでコーヒーを飲み終わる頃に、目の前のガラス張りの窓に柚葵が現れた。私は軽く手を振ってから飲み終わったカップを返却し、すぐに店を出た。

「待たせたな」
「ううん、そんなに待ってないよ。お疲れ!」
「あー、えっと、行きつけの寿司屋、俺んちの近くにあるんだけど」
「行きつけとかあるの? すごい、楽しみ!」
「あ、うん。いいのか?」

 柚葵がなぜか遠慮がちに訊ねる。

「いいよ。お寿司大好きだもん」
「そっか。じゃ、行くか」
「うん」

 私たちは電車に乗って柚葵のマンションがある最寄り駅までやって来た。目的の寿司屋は裏路地に入った隠れ家のような店だけど、口コミで広がって多くの客が訪れるらしい。特に今日は週末で、少し混雑していた。
 私たちはカウンター席に案内された。
 目の前で寿司を握るおじさんがにっこり笑って「いらっしゃい」と声をかけてくれた。

「お寿司はいつもスーパーのお惣菜コーナーで買うの」
「ひとりで寿司屋に来ないのか?」
「まだ勇気ない」
「じゃあ、思いきり食えよ。奢るからさ」
「うそ? いいの? 柚葵くん太っ腹!」

 冗談で「太ってねーわ」って言うかと思ったら、なぜか柚葵は頬を赤らめてうつむいた。
 なんだか最近の柚葵は可愛い表情をするなあって思う。

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