シンママ派遣社員とITコンサルの美味しい関係
第二十三話「二人だけのデート」
土曜日の午後。
「ママ、行ってくるね!」
大翔が元気よく手を振り、友達の家へと駆けていくのを見送る。
友達の家で夕方まで遊ぶ約束になっていて、しばらくの間、美咲は一人の時間ができた。
そして今日は、瀬尾と二人だけで過ごす、初めてのデート。
――デート、って言っていいのかしら……。
交際を始めてから、3人で過ごす時間は何度もあったが、こんなに長い時間、瀬尾と二人きりになれるのは初めてだった。
「母親」ではなく「一人の女性」として過ごす時間に、少し緊張する。
瀬尾との待ち合わせ場所に向かうと、すでに彼は待っていた。
「こんにちは、佐伯さん」
「こんにちは……!」
名前を呼ばれて、ふっと心が揺れた。
「少し歩きますか?」
「ええ」
駅前の通りを並んで歩きながら、美咲は少しだけ落ち着かない気持ちになる。
3人でいるときは自然に振る舞えるのに、二人きりだと妙に意識してしまう。
瀬尾はそんな美咲の様子に気づいたのか、優しく微笑んだ。
「緊張してます?」
「……してるかも」
「僕もです」
「え?」
「だって、佐伯さんと二人きりの時間は初めてですから」
そう言われて、少し肩の力が抜けた。
「じゃあ、カフェに入りましょうか?」
「そうですね」
◇◇
静かで落ち着いた雰囲気のカフェに入り、向かい合って座る。
コーヒーと軽食を注文し、最初はたわいない話をしていたが、瀬尾がふと真剣な表情になる。
「佐伯さんは……結婚したら、どんな家庭を築きたいと思いますか?」
「……え?」
予想外の質問に、美咲は少し戸惑った。
「もちろん、すぐに結婚を考えてほしいとか、そういう話じゃなくて。お互いに、どんな家庭が理想なのかを知っておきたいと思ったんです」
瀬尾の目は真剣だった。
美咲は少し考えたあと、静かに口を開いた。
「……私は、家族が助け合える関係がいいと思ってます」
「助け合える関係、ですか?」
「前の結婚では、それができなかったから……」
カップを両手で包み込みながら、美咲はゆっくりと言葉を選ぶ。
「元夫は、仕事が忙しくて……というより、仕事を理由に家庭を顧みなかった人でした。だから、私が全部を背負うしかなくて。もちろん、それが当たり前だと思っていた時期もありました。でも、結局……無理だった」
「……」
「だから、もしもう一度誰かと家庭を築くなら、一緒に支え合える関係がいいと思うんです」
瀬尾は黙って話を聞いていたが、やがて静かに頷いた。
「僕も、そう思います」
「……?」
「それに、結婚したとしても、仕事は続けてほしいと思っています」
「え?」
「佐伯さんが社会とつながりを持ち続けることは、とても大切なことだと思うからです。佐伯さんの仕事に向かう姿勢を、僕はすごく尊敬しているし、ずっと輝いていてほしい」
美咲の胸が、じんわりと温かくなる。
「……ありがとう」
「だからこそ、お互いに支え合うのは当然だと思っています。どちらかが負担を一方的に抱えるのではなく、一緒にバランスを取っていく。それが本当の家族だと思うんです」
「瀬尾さん……」
この人は、ただの理想を語っているわけではない。
本気で、そういう家庭を築きたいと思っているのが伝わってきた。
「……私も、そうなれたらいいなと思ってます」
――この人となら、それが叶うのかもしれない。
「佐伯さん」
「……はい?」
「そろそろ、名前で呼んでもいいですか?」
「え……」
不意打ちのような言葉に、美咲は思わず瞬きをした。
「佐伯さん、って呼ぶのも慣れてましたけど……こうして二人で過ごしていると、少し距離を感じる気がして」
「……そうですね」
美咲は少しだけ迷ったが、すぐに微笑んだ。
「じゃあ、私も……瀬尾さんじゃなくて、亮介さんって呼びますね」
「はい」
瀬尾──亮介は、少し照れたように微笑んだ。
「美咲さん、ですね」
「……なんだか新鮮ですね」
「そうですね。でも、いいですね」
美咲は、その言葉にそっと頷いた。
名前を呼び合うだけで、関係が一歩進んだ気がする。
そして、この人となら、未来を一緒に歩んでいけるかもしれない。
そう思える瞬間だった。
◇◇
カフェを出る頃には、二人の距離は少し縮まっていた。
「美咲さん、次はどこか景色のいいところに行きませんか?」
「いいですね」
「では、また計画しましょう」
「はい、亮介さん」
「……うん。嬉しいです」
美咲は、亮介の柔らかな微笑みを見ながら、心の中でそっと呟いた。
――この人と一緒にいると、私……こんなふうに自然に笑えるんだな。
初めての二人だけのデートは、穏やかで、心地よい時間だった。
「ママ、行ってくるね!」
大翔が元気よく手を振り、友達の家へと駆けていくのを見送る。
友達の家で夕方まで遊ぶ約束になっていて、しばらくの間、美咲は一人の時間ができた。
そして今日は、瀬尾と二人だけで過ごす、初めてのデート。
――デート、って言っていいのかしら……。
交際を始めてから、3人で過ごす時間は何度もあったが、こんなに長い時間、瀬尾と二人きりになれるのは初めてだった。
「母親」ではなく「一人の女性」として過ごす時間に、少し緊張する。
瀬尾との待ち合わせ場所に向かうと、すでに彼は待っていた。
「こんにちは、佐伯さん」
「こんにちは……!」
名前を呼ばれて、ふっと心が揺れた。
「少し歩きますか?」
「ええ」
駅前の通りを並んで歩きながら、美咲は少しだけ落ち着かない気持ちになる。
3人でいるときは自然に振る舞えるのに、二人きりだと妙に意識してしまう。
瀬尾はそんな美咲の様子に気づいたのか、優しく微笑んだ。
「緊張してます?」
「……してるかも」
「僕もです」
「え?」
「だって、佐伯さんと二人きりの時間は初めてですから」
そう言われて、少し肩の力が抜けた。
「じゃあ、カフェに入りましょうか?」
「そうですね」
◇◇
静かで落ち着いた雰囲気のカフェに入り、向かい合って座る。
コーヒーと軽食を注文し、最初はたわいない話をしていたが、瀬尾がふと真剣な表情になる。
「佐伯さんは……結婚したら、どんな家庭を築きたいと思いますか?」
「……え?」
予想外の質問に、美咲は少し戸惑った。
「もちろん、すぐに結婚を考えてほしいとか、そういう話じゃなくて。お互いに、どんな家庭が理想なのかを知っておきたいと思ったんです」
瀬尾の目は真剣だった。
美咲は少し考えたあと、静かに口を開いた。
「……私は、家族が助け合える関係がいいと思ってます」
「助け合える関係、ですか?」
「前の結婚では、それができなかったから……」
カップを両手で包み込みながら、美咲はゆっくりと言葉を選ぶ。
「元夫は、仕事が忙しくて……というより、仕事を理由に家庭を顧みなかった人でした。だから、私が全部を背負うしかなくて。もちろん、それが当たり前だと思っていた時期もありました。でも、結局……無理だった」
「……」
「だから、もしもう一度誰かと家庭を築くなら、一緒に支え合える関係がいいと思うんです」
瀬尾は黙って話を聞いていたが、やがて静かに頷いた。
「僕も、そう思います」
「……?」
「それに、結婚したとしても、仕事は続けてほしいと思っています」
「え?」
「佐伯さんが社会とつながりを持ち続けることは、とても大切なことだと思うからです。佐伯さんの仕事に向かう姿勢を、僕はすごく尊敬しているし、ずっと輝いていてほしい」
美咲の胸が、じんわりと温かくなる。
「……ありがとう」
「だからこそ、お互いに支え合うのは当然だと思っています。どちらかが負担を一方的に抱えるのではなく、一緒にバランスを取っていく。それが本当の家族だと思うんです」
「瀬尾さん……」
この人は、ただの理想を語っているわけではない。
本気で、そういう家庭を築きたいと思っているのが伝わってきた。
「……私も、そうなれたらいいなと思ってます」
――この人となら、それが叶うのかもしれない。
「佐伯さん」
「……はい?」
「そろそろ、名前で呼んでもいいですか?」
「え……」
不意打ちのような言葉に、美咲は思わず瞬きをした。
「佐伯さん、って呼ぶのも慣れてましたけど……こうして二人で過ごしていると、少し距離を感じる気がして」
「……そうですね」
美咲は少しだけ迷ったが、すぐに微笑んだ。
「じゃあ、私も……瀬尾さんじゃなくて、亮介さんって呼びますね」
「はい」
瀬尾──亮介は、少し照れたように微笑んだ。
「美咲さん、ですね」
「……なんだか新鮮ですね」
「そうですね。でも、いいですね」
美咲は、その言葉にそっと頷いた。
名前を呼び合うだけで、関係が一歩進んだ気がする。
そして、この人となら、未来を一緒に歩んでいけるかもしれない。
そう思える瞬間だった。
◇◇
カフェを出る頃には、二人の距離は少し縮まっていた。
「美咲さん、次はどこか景色のいいところに行きませんか?」
「いいですね」
「では、また計画しましょう」
「はい、亮介さん」
「……うん。嬉しいです」
美咲は、亮介の柔らかな微笑みを見ながら、心の中でそっと呟いた。
――この人と一緒にいると、私……こんなふうに自然に笑えるんだな。
初めての二人だけのデートは、穏やかで、心地よい時間だった。