シンママ派遣社員とITコンサルの美味しい関係

第二十四話「3人で過ごす休日」

 朝から晴れ渡る休日、美咲は手作りのお弁当とレジャーシートをバッグに詰めながら、大翔のはしゃぐ声を聞いていた。

「ママー! 早く行こうよ!」

「はいはい、大翔。忘れ物はない?」

「うん! ちゃんと持ったよ!」

 今日は、瀬尾――亮介と3人でピクニックに行くことになっている。

 エントランスの前で待っていると、カジュアルなシャツにデニム姿の亮介が、小さなクーラーボックスを持って歩いてきた。

「お待たせ、美咲」

「ううん、ちょうど準備できたところ。……それ、もしかして?」

「お弁当。せっかくだから、僕も作ってきたよ」

「やっぱり!」

 美咲は小さく笑いながら、彼の手にあるクーラーボックスを見つめる。

「お兄さんのお弁当!? やったー!」

 大翔が飛び跳ねるように喜び、亮介が優しく笑う。

「じゃあ、行こうか」

 亮介は自然に大翔の手を取る。
 その姿を見ながら、美咲の心の中には温かいものが広がっていた。

   ◇◇

 公園に到着すると、大翔はすぐに駆け回り始めた。
 紅葉は真っ赤に色づき、蹴り上げられた落ち葉が低く宙を舞っている。
 美咲と亮介はレジャーシートを広げ、飲み物を準備しながら彼を見守る。

「子どもの体力って無限よね」

「本当に……さっきまであんなにはしゃいでたのに、まだ走り回れるなんて」

 そんな会話を交わしながら、美咲はバッグから自作のお弁当を取り出した。
 それに合わせるように、亮介も自分の作ったお弁当を広げる。

「じゃーん!」

「すごい……!」

 美咲が思わず感嘆の声を上げるほど、亮介のお弁当は彩り鮮やかで、どれも美味しそうだった。

「今日は、鶏の照り焼きと出汁巻き卵、それからポテトサラダ。美咲のは?」

「こっちは唐揚げと卵焼き、あとウインナーとおにぎり」

「お兄さんのお弁当、美味しそう!」

 大翔はさっそくお箸を伸ばそうとして、美咲に軽く手を止められる。

「ちゃんと『いただきます』してからね」

「あっ、そうだった!」

 3人で手を合わせ、「いただきます!」

   ◇◇

 ゆっくりとお弁当を食べながら、未来の話をする。

「大翔がもっと大きくなったら、一緒にキャンプとか行きたいね」

「キャンプ?」

 大翔がパッと顔を上げる。

「キャンプって、テントで寝たりするやつ?」

「そうそう。外でご飯を作ったり、川で遊んだりするのも楽しいよ」

「やったー! ぼく、キャンプ行きたい!」

 大翔は勢いよく手を上げ、亮介に向かってニコニコしながら言った。

「お兄さん、キャンプ得意なの?」

「まあ、ちょっとだけね」

「すごい! 絶対行こうね!」

「うん、そのうち計画しようか」

 美咲は、その楽しそうなやり取りを静かに見つめていた。

――大翔にとって、こんなふうに『一緒に何かをする人』がいることが、とても大切なことなんだろうな。

 今までずっと母子ふたりで頑張ってきたけれど、亮介がいることで、大翔の世界も広がっている気がする。

 そんなことを考えながら、美咲はふと、亮介の手を握る大翔の姿を見つめた。

――この人は、本当に、大翔にとっても大切な存在になっているんだ。

   ◇◇

 帰り道。

 ピクニックを満喫し、大翔は少し疲れたのか、美咲の手を握りながら歩いていた。

「お兄さん、今日はありがと!」

「こちらこそ、楽しかったよ」

「ねえ、お兄さん?」

「うん?」

 大翔は少し考えるように立ち止まり、亮介を見上げた。

「お兄さん、本当に僕のお兄ちゃんだったらいいのに!」

 美咲の足が、ピタリと止まった。

「……え?」

 亮介も驚いたように大翔を見つめる。

「だって、お兄さんといると楽しいし、ママも笑ってるし、それに……」

 大翔は少し照れたように、亮介の袖をぎゅっと握った。

「お兄さんがいたら、もっと楽しくなると思うんだ」

 亮介は一瞬言葉を失ったが、すぐに優しく微笑んだ。

「ありがとう、大翔」

 そう言って、そっと大翔の頭を撫でる。

 美咲は、大翔の言葉を反芻しながら、じわりと胸が熱くなるのを感じていた。
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