シンママ派遣社員とITコンサルの美味しい関係

第二十七話「新しい命」

 夏の朝、窓から差し込む日差しが明るく部屋を照らしていた。
 蝉の声が遠くから聞こえ、じんわりとした暑さが季節を感じさせる。

 美咲は病院の待合室で、ゆっくりと息を整えていた。
 手元には、妊娠を告げる診察結果。
――本当に、新しい命が。

 鼓動が少しだけ速くなる。
 亮介との結婚からまだそれほど時間は経っていない。
 大翔との生活も落ち着き、新しい家族としての日々を楽しんでいた。

 そこに、突然の変化。

 嬉しさとともに、少しだけ不安もあった。
 でも――。

 美咲はそっとお腹に手を当て、小さく微笑んだ。
 
   ◇◇

「亮介、話があるの」

 夕食の後、片付けを終えた美咲は、亮介に向き合ってそう言った。

「どうしたの?」

「……これ」

 美咲が差し出した診察結果の封筒を、亮介は不思議そうに受け取り、中を見る。
 そして、一瞬動きを止めた。

「え……」

 美咲が緊張しながら彼の顔をうかがうと、亮介の表情は驚きから、じわじわと喜びに変わっていった。

「……僕たちの新しい家族だね」

 そう言って、亮介は優しく微笑みながら、美咲の手をそっと包み込む。

「驚いた?」

「もちろん。でも、それ以上に嬉しい」

 亮介の目は、まっすぐで揺るぎない。
 その温かさに、美咲の心から不安がすっと消えていくのを感じた。

「大翔に伝えなくちゃね」

「うん。でも、どういう反応するかな……」

「さあ……」

 二人は微笑みながら、大翔の部屋の前に立った。

   ◇◇

 大翔の部屋。

「大翔、ちょっといい?」

「なあに?」

 パジャマ姿の大翔がベッドの上で絵本を開いていた。
 美咲と亮介が並んで部屋に入ると、彼は首をかしげる。

「ママとパパ、なんか変な顔してる」

「そんなことないわよ」

 美咲はそっとベッドの縁に腰を下ろし、大翔の小さな手を取った。

「大翔に、大事なお話があるの」

「お話?」

「うん。実はね……」

 美咲はちらりと亮介を見てから、ゆっくりと言葉を紡ぐ。

「もうすぐ、大翔はお兄ちゃんになるのよ」

「お兄ちゃん?」

 大翔の目がぱちぱちと瞬く。

「ママのお腹の中に、赤ちゃんがいるの」

 しばらく、美咲と亮介を交互に見つめたあと――。

「……え? 本当に?」

「うん、本当よ」

 美咲が微笑むと、大翔は少しの間黙ったまま、考えるような顔をした。

「……そっか。ぼく、お兄ちゃんになるんだ……」

 小さな手がぎゅっと布団を握る。

 ワクワクしているような、でもちょっぴり不安げな表情。

「……ねえ、ママ?」

「なあに?」

「赤ちゃんが生まれたら、ぼくのことも、ちゃんと見てくれる?」

 美咲の胸がきゅっと締めつけられた。
 小さな大翔なりに、新しい家族が増えることを理解している。
 だからこそ、少しだけ不安になったのだろう。

 美咲は大翔をそっと抱きしめた。

「もちろんよ。ママもパパも、これからもずっと大翔のこと、大好きよ」

「……ほんと?」

「本当」

 亮介も優しく微笑みながら、大翔の髪を撫でる。

「大翔は、ずっと大事だよ」

 大翔は少し考えるようにして、それから小さく頷いた。

「……わかった!」

 次の瞬間、ぱあっと笑顔になり、嬉しそうに言った。

「じゃあ、ぼく、ちゃんとお兄ちゃんする!」

 美咲と亮介は顔を見合わせて、そっと笑う。

「ありがとう、大翔」

「うん!」

   ◇◇

 夜、寝室。

  美咲と亮介は並んで布団に入った。
 手を繋ぎながら、天井を見つめる。

「大翔、きっといいお兄ちゃんになるね」

「そうね。でも、まだ甘えたい年頃だから、私たちも気をつけないと」

「うん」

 美咲は亮介の手をぎゅっと握る。

「これからも、家族みんなで支え合っていこうね」

「もちろん」

 亮介が微笑みながら、美咲の手を優しく包み込んだ。

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