敏腕システムエンジニアの優しすぎる独占欲〜誰にでも優しい彼が、私にだけ甘すぎる〜
「藤堂さん……?」

木崎の小さな声に、ハッとする。
不安そうな瞳が、まっすぐ俺を見つめていた。

「ごめん、少し考え事してた」

頭をかきながら苦笑すると、木崎は首を横に振った。

「あ、あの……今日も助けてくれて、本当にありがとうございました。ご迷惑、おかけして……」
「いや、俺こそ……」

いつものように建前の言葉を並べかけて一度考える。

……このまま何も言わなければ、また後悔するんじゃないか。

半分は、勢いだった。
俺は、思いのままに感情を伝える。

「……言葉を間違えたかもしれないと思ってたんだ」
「間違い……?」

木崎がきょとんとする。その顔を見て、俺は小さく息をついた。

「聞きたくないかもしれないけど、少し、昔話をしてもいい?」

隣に座り直し、彼女の瞳を見つめる。
木崎は驚いたように目を丸くしたが、やがて小さく頷いた。

「昔、俺は人を傷つけてしまったことがあって。どうしてもその後悔から抜け出せない」

過去を口にするのは、まだ痛みを伴う。
それでも、木崎に対しては誠実でいたかった。

今、大切に思う人の前で、かつての恋人の話をするなんて、馬鹿なことだと分かっている。

だけど伝えずにこのまま進めば、いつか俺は彼女を傷つけてしまう。
そうなるくらいなら、今ここで正直に話したかった。

この感情すらも自分を守るための、甘い行動なのかもしれないと、自嘲する。
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