いきなり三つ子パパになったのに、エリート外交官は溺愛も抜かりない!

「お母さんが交通事故に?」

 裕斗が心配そうに眉をひそめた。麻衣子も深刻な気持ちで相槌を打つ。

「うん。絵麻の……妹の話では運転ミスをしてしまったみたいで」
「怪我の程度は?」
「詳しくは分からないけど、入院したと言っていたから大怪我だと思う。だから帰国を早めようと思っているの」

 寮を出た後はロンドン市内の裕斗のフラットに何日か滞在して、ふたりで過ごすつもりでいた。楽しみにしていたが、そうは言っていられない。

 母が心配なのはもちろんだが、絵麻もかなり参った様子だったのだ。

 おそらく家族が事故に遭うのは初めての経験だから動揺しているのだろう。不安なはずだから早く帰ってあげなくては。

「約束していたのに、ごめんね」
「こんなときに俺に気遣うな。だが心配だから、帰国して落ち着いてからでいいから、連絡してほしい」
「ええ」
「お母さんの怪我が早く治ることを祈っているよ」
「ありがとう」

 元々帰国予定で荷物を纏めていたから、準備は手早かった。

 エアチケットを手配し、裕斗にヒースロー空港まで送ってもらった。

「裕斗さん、日本についたら連絡するね」
「ああ、待ってる。俺も再来月には帰国するから、その時会おう」
「うん……」

 裕斗が分かれを惜しむように麻衣子を抱き寄せた。

 目の奥がじんと熱くなる。涙が零れそうになり、麻衣子はぎゅっと目を閉じた。寂しくて心が痛い。

 裕斗と出会い共に居たのは、これまでの人生のほんのひとときだ。

 それなのに彼の存在はもうこんなに大きくなっていて、離れるのがとても辛い。

 それでも麻衣子は彼の側に居たい気持ちを心の奥に閉じ込めて、そっと離れた。

 精一杯の努力をして笑顔をつくる。

「そろそろ行くね」
「ああ」

 裕斗も笑顔を浮かべているが、麻衣子を見つめる瞳には寂しさが滲んでいる。

「ほんの少しの別れだ」
「うん……日本で待ってる」

 麻衣子は再会を願い、手を振った。

 まさかこれが最後の別れになるとは思いもせずに――
 
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