いきなり三つ子パパになったのに、エリート外交官は溺愛も抜かりない!
不穏な気配
帰国して母と妹と暮らすマンションに到着したのは、午後二時過ぎだった。
(荷物を置いたらすぐに病院に行こう。それから……)
これからの段取りを考えながら玄関のドアを開ける。
「お帰りなさい」
「あ、絵麻……ただいま」
妹の出迎えを受けて麻衣子は笑顔になったけれど、すぐに気持ちを引き締めた。
管理栄養士として食品メーカーで働いている彼女が、この時間に在宅しているのは仕事を休んだからだ。学生のころから希望していた食品研究の仕事に就くことが叶った絵麻は仕事が楽しいようで、よほどの体調不良でない限り休みたくないと常々言っていた。
そんな妹が、自宅で麻衣子の帰りを待っていたのはおそらく母の怪我が深刻だから。
(電話で聞いていたよりも、よくない状況なのかもしれない)
「お母さんの怪我はかなり酷いの?」
麻衣子の問いに、絵麻が浮かない表情で頷いた。
「お姉ちゃんと一緒に病院に行こうと思って待っていたの」
「分かった。荷物を置いたらすぐに行こう」
「うん。でもその前に話しておきたいことがあるの。事故の件で問題があるんだけど、電話では話しづらいことだから、お姉ちゃんの帰りを待っていたの」
絵麻の表情から、よくない内容なのだと分かる。
麻衣子はキャリーケースを玄関脇に置き、絵麻と共にリビングに向かった。
事故の件でごたごたしていたのだろう。室内は雑然としている。
絵麻が冷たい麦茶が入ったコップをダイニングテーブルに置いた。
「ありがとう」
意識していなかったけれど喉が渇いていたようだ。喉の奥を冷たい流れが通るのを感じる。