いきなり三つ子パパになったのに、エリート外交官は溺愛も抜かりない!

 裕斗は河川敷を歩きながら、途方に暮れた思いでため息を吐いた。 

 結論として麻衣子とは会えなかった。
 彼女は半月前に引っ越しをして、行先は誰も知らないとのことだったのだ。

(まさか、アドレスを変えただけではなく、実家まで引き払うとは……)

 麻衣子の行動は、まるで裕斗から逃げようとしているかのように行動的で徹底的だ。

「手がかりが、なくなったな」

 裕斗は力なく呟いた。あれほど身近に感じていた彼女との関係が、これほど脆いものだったとは。その事実に今更のように気づき愕然とした。

 その後、短い日本滞在期間に、手を尽くして麻衣子の行先を捜したが、結局手がかりひとつ掴めなかった。

 タイムリミットを迎えて、なんの成果もないままロンドンに戻った裕斗は、麻衣子と共通の知人である亜里沙を訪ねた。

 その日彼女は、祖母の豪邸でのんびり過ごしていたが、裕斗が麻衣子とのやりとりを伝えると、激しく動揺した。

「うそ……麻衣子はそんな不義理をする子じゃない。きっと事情があるのよ」
「俺もそう思っている。だから君を訪ねたんだ。麻衣子の行先に心当たりはないか?」
「残念ながら私も何も聞いていないわ。麻衣子が寮を出る前に話をしたけどそれから連絡がなくて……帰国したばかりで忙しいんだろうから私から連絡するのも遠慮していたの」

 亜里沙はそう言って黙り込む。麻衣子を親しかった彼女にとっても、ショックなことなのだろう。実際ふたりはとても仲がよくて、麻衣子は彼女に感謝していた。

(なぜ、亜里沙さんとの関係まで絶つんだ?)

 裕斗と別れたいだけで、親友をも切り捨てるような真似をするだろうか。

(あり得ない)

 彼女はそんな薄情な人間ではない。やはり、何か事情があるはずだ。

「亜里沙さんのところに麻衣子から連絡が来たら、知らせてくれないか?」

 亜里沙は少し迷ってから頷いた。

「分かった。でも、これからどうするつもりなの? その……麻衣子は別れたいと言ってたんでしょう?」
「ああ。だが別れるにしても、会って話し合いたいんだ。あんな電話が最後だなんて、納得できない」
「そうね。私も会って話し合った方がいいと思う。ふたりは本当に素敵な恋人だったから」

 亜里沙の言葉に、裕斗は言葉に詰まった。

(ああ、本当に幸せだった)

 彼女が側にいるだけで自然と笑顔になれて、優しい気持ちになれた。

 もし本当に麻衣子の心が離れただけなのだとしても、彼女が無事に幸せ暮らしているところをこの目で確認したいと思う。

 そうしなければ諦められない。それだけは確かだった。
< 60 / 134 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop