いきなり三つ子パパになったのに、エリート外交官は溺愛も抜かりない!
「羽澄、明日空いていないか?」
大臣レクも無事終了し、勤務後退庁しようとしていたところ、粕屋が声をかけてきた。
「明日は相場の様子を見に行く予定ですが」
裕斗は嫌な予感を覚えながら答える。粕屋が退勤ぎりぎりにわざわざ声をかけてくるのは、たいてい面倒ごとを持ち掛けてくるときだからだ。
「埼玉の病院だったか? あいつは、どうしてそんな遠くに入院したんだ」
粕屋が怪訝そうに首をかしげる。
「実家がそちらにあるので、何かと都合がいいんでしょう。埼玉と言っても県境で、一時間もかかりませんから」
相場は裕斗の同僚で、同じく粕屋の部下である。
彼は休日、車を運転中に貰い事故を起こして、大腿骨を複雑骨折するという大怪我をした。手術とリハビリが必要とのことで、現在は実家近くの基幹病院で入院中だ。
「しっかり様子を見てきてくれ。来月はスイスで国際会議があるし、早く復帰できるといいんだが」
「はい。ではお先に失礼します」
「いや、ちょっと待ってくれ」
話が終わったのをいいことに其の場を去ろうとしたが、呼び止められてしまった。
「なんでしょうか?」
「例の見合いの件は、考えておいてくれたか?」
「粕屋課長。その話はお断りしたはずですが」
ずしりと気分が重くなった。
「考え直せと言っただろう?」
「結論は変わりませんので、曖昧にせずに断っていただきたいです。難しいのでしたら、私が直接話しますが」
裕斗の返事が気に障ったのか、粕屋の眉間に深いしわが寄った。
「そんな簡単に結論を出すな。少しは忖度しろ。それがお前の将来の為になるんだ」
裕斗は思わずため息を吐きそうになった。
(うんざりする)
粕屋は世渡りが上手く、同期と比べても順調に出世をしている。彼が言った通り各方面に忖度し長いもの迩巻かれながら、熾烈な競争社会を生き抜いて来たのだ。
裕斗は粕屋のやり方に共感はしていないが、終始ぶれない態度は筋が通っていると思っている。ただその姿勢を他人に押し付けるのは辞めて欲しいと思う。
ましてや裕斗の結婚についてまで口出しをするのは勘弁してほしい。