いきなり三つ子パパになったのに、エリート外交官は溺愛も抜かりない!
 どういうことだ? ひとりで子供を育てているのか?

 今すぐ問い詰めたいが、ふたりの間に存在する壁がそれを許さず、気まずい沈黙が訪れる。

「かわいい女の子だな……二歳くらいか?」

 裕斗はなんとか口を開いた。核心に触れられなくても、彼女の事情が知りたい。
 もし困っているのなら助けたい。

 子供を産んでいた事実は衝撃的だが、それでも裕斗の中で育ち大きくなった彼女への愛情が揺らぐことはない。

「えっ?」

 残念ながら麻衣子の反応は、あまりよくないものだった。

「あの、ごめんなさい。そろそろ帰らないといけなくて」

 麻衣子はそわそわした様子で、立ち去ろうとする。

「近いうちに、時間を作ってくれないか?」
「え?」

 麻衣子の顔がさっと曇った。迷惑だと感じたのだろう。

 裕斗に彼女を引き留める権利はない。そう分かっているが、言わずにはいられなかった。

「電話で別れたきりになっていただろ? 一度しっかり話をしたいと思っていたんだ。場所や時間は麻衣子の都合に合わせる」

 麻衣子はしぶしぶと言った様子で頷いた。

「……わかりました。短い時間なら」

 裕斗はほっと息を吐いた。次の約束を取り付けられたのだ。

「十分だ。ありがとう」
「俺の連絡先は変わっていないが、念のため名詞を渡しておく」

 受け取って貰えるか心配だったが、彼女はほっそりした手を伸ばしきた。

 渡すときほんの一瞬指先が触れ合い、裕斗の心臓がどくんと跳ねる。

「子供を預けないといけないから、予定が決まったら連絡します」

 麻衣子は目を伏せながら言った。

「ああ、待ってる」

 麻衣子はお辞儀をしてから踵を返し、小春をぎゅっと抱きしめながら足早に去っていく。
 遠ざかっていく小さな背中を、裕斗は目をそらさずに見送った。

 東京に戻った裕斗は、東京に戻り急ぎ所要を済ませてから、大手町のダイニングバーに向かった。

 通りから一本奥に入り外から店内の様子がよく見えないため、一見飛び込み辛い雰囲気の店だが、裕斗は渡英する前からときどき通っている、慣れた店だ。

 待ち合わせ相手は既に着いていて、奥のテーブル席で飲みはじめていた。

「裕斗、こっちだ」

 手を上げて合図を送ってきたのは、学生時代からの友人である宇佐美だ。気が置けない関係で、彼が調査会社を経営していることから麻衣子を探す手助けもして貰った。
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