いきなり三つ子パパになったのに、エリート外交官は溺愛も抜かりない!
(……麻衣子?)

 視線の先には、白衣姿の意思と若い女性がいて何か話し込んでいたが、その女性は裕斗が必死に探し求めていた麻衣子にそっくりだった。

 予想もしていなかった事態に咄嗟に体が動かなかった。見間違いかもしれないとすら疑った。

 もともたしているうちに、麻衣子は病院のエントランスから出て行ってしまう。

 はっとしてすぐに後を追い声をかけた。

 振り返った彼女は、記憶のままの姿で、裕斗は胸が締め付けられるような感覚に襲われた。

「麻衣子……」

 もう一度会えたら何と声をかけようか何度も考えた。実際其の場で出てきた言葉は、なんとも情けないものだった。

 麻衣子もかなり驚いているようで、動揺が表情に現れている。

 変わりないと思った彼女だが、改めて見つめると、変化が分かった。

 朗らかだった表情は、年を重ねたためか落ち着きどこか憂いを感じる印象になっている。

 肩の上で軽やかにカールしていた髪が今は伸びて、一つにまとめられている。

 探し求めていた彼女が目の前にいる事実に、胸が騒めく。周囲の音も聞こえなくなりそうなほど、思考が彼女に占められたそのとき幼い子供の高い声で現実に戻された。

 麻衣子の足元に、とても小さな女の子が居た。

 子供は裕斗を不安そうに見つめたあと、麻衣子の足にぎゅっとしがみつく。

「ママ……」

 頼りない子供の声だけれど、はっきり聞こえた。裕斗は思わず息をのんだ。

(まさか、麻衣子の子供なのか?)

 麻衣子が幼子を慣れた様子で抱き上げる。

 子供は安心したように、麻衣子の胸に顔を寄せる。

「この子は……ママと言っていたが君の子供なのか?」

 裕斗がかすれた声で問いかけると、麻衣子は迷いなく頷いた。

「私の娘です」

 裕斗は鈍器で殴られたような衝撃を感じた。

「……結婚したのか?」

 あれからもう四年以上経っている。彼女は別れるときに、他の男との交際を考えていると言っていたのだから、結婚していても不思議はない。

 それでも裕斗は麻衣子が結婚しているとは考えていなかった。いや、あえて考えないようにしていたのかもしれない。

 突き付けられた現実に、打ちのめされる。取り乱さないようになんとか平静さを保っているのに、続いた麻衣子は発言は更に驚愕するものだった。

「いえ、結婚はしていません」
「それは……」
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