しゃべりたかった。

5

今日は色んなことがあった。
 まず、クラスのみんなと卒業式の練習をした。緊張したけど、無事できてよかったと思う。次に、出版社に本のデータを送れたこと。一週間ほどで審査が通れば販売できるそうだ。
 卒業まであと3日。
 あっという間に3日が過ぎた。
 家でも学校でも、卒業式の練習をした。
 卒業式前日の夜は中々寝つけなかった。

 でも、寝てしまえばすぐに朝がきた。
 いつも通りより早くに起き、朝ごはんを食べ、準備をする。
 ちょっと前に服屋でレンタルしたワンピースを着て、髪の毛を大きいリボンで結ぶ。

 お母さんと手を繋いで、学校へ向かった。

 学校から家はそんなに遠くない。
 けど、近すぎるわけでもなく、中間ぐらい。

 教室じゃなくいつも通り保健室へ行くと、先生もオシャレしていた。
「おはようございます。」
 わたしは最後になるであろう挨拶をして、今日で来るのが最後だろう保健室へ入った。
「おはよう。わあ、かわいいね。」
 今日で先生と会うのも最後。
 と思うと、寂しい気持ちが湧いてきた。
 卒業式が始まるまで、わたしは保健室で自由にしていた。
 先生としゃべったり、ぼーっとしたり、保健室を見渡してみたり。
 最後の保健室での時間を楽しんだ。
 その時間は長いような、短いような、不思議な感覚だった。
 時計が始まる時間を示した。
 わたしは先生と体育館へ向かった。

 体育館に向かう途中でクラスの子たちに会い、列の中に入らせてもらった。
 体育館へ入ると、たくさんの人と拍手で包まれていた。
 みんなの親たちが大勢いる中でお母さんを探してけど、見つけられなかった。

 6年生の席へ座る。
 ――いよいよだ、と思った。
 卒業式に参加するのは今年で初めて。5年生の時は不参加だった。
 だから、初めて。この空気感も初めてだ。
 妙にドキドキして、その理由は親たちがいるからだと思った。練習の時も緊張したけど、今日は数倍緊張する。本番、と思っているからかもしれない。
 ちょっとして、各学年の先生たちが入ってきた。その中に、保健室の先生がいるのを見逃さなかった。
 先生がいてくれるのは、嬉しいような、恥ずかしいような気持ちだった。
 次に色んな人がわたしたちに向けて話した。卒業おめでとう、中学校でも頑張れよ、みたいな感じだった。
 つづいてはいよいよあれ。卒業証書受賞式。
 前の子が呼ばれると、次だ、次だ、と鼓動が速まった。
「飯田梨沙。」
「はい!」
 声を出したつもりだけど、小さくかすんでしまった。
 卒業証書を受けとり、席へ戻る。
 つづいてはいよいよ何回も何回も練習してきた言葉を言ったり歌を歌う時間。
 1人1人が思い出を言う。
 わたしの番がきた。
「心を1つに頑張った運動会。」
 これもまた、お母さんたちの方へ届いたかわからない声の大きさだった。だけど、きちんと言えてほっとした。すこしは震えたもしれないけど。
 最後にみんなで合唱。 曲は『わたしたちは進んでいく』。YURUORIという人たちの曲だ。
 家でも先生ともクラスの子たちとも何度も練習してきた。
 想いを込めて歌う。
 自然と頭の中で今までの思い出が蘇る。
 ぽつり、と涙が落ちた。
 泣かないと思ってたのに…朝お母さんに「泣いちゃうんじゃない?」と言われ、「それはお母さんでしょ。」と答えたのに…。
 6年生の合唱がおわり、体育館は拍手に包まれた。

 そして、卒業式も幕を閉じた。

 体育館から出て、学校付近でわたしはみんなと何枚も写真を撮った。

 家へ帰る時、保健室の先生が会いにきてくれ、わたしは先生とハグをした。
 わたしの目からはとめどなく涙が出る。
 先生も泣いていた。
 最後に先生が
「中学校でも頑張ってね。応援してるよ。」
 と言ってくれ、わたしは大きくうなずいた。

 お母さんと帰ろうとすると、綾乃ちゃんが来た。
「ね、一緒帰ろうよ。」
 わたしは嬉しくて、「うん!」と返事した。
 お母さんは嬉しそうに言った。
「よかったじゃない。お母さん先行ってるね。」
 途中で綾乃ちゃんと別れると、わたしはお母さんと家へ帰った。

 わたしは、しゃべれるようになった。
 先生のおかげで。
 本当に感謝しかない。
 前は卒業式参加しないと思っていたのに、参加できた。
 綾乃ちゃんと仲直りできないと思ってたけど、仲直りできた。
 本を出版できた。
 “奇跡は起きるものじゃない、起こすものだ。”
 本当にそう思う。
 自分が頑張ったから、できたことだ。

 おわり

 
 
 

 
 
 
 
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