好きって言ってよ ~先輩、溺愛しすぎですっ~
そんなある日の土曜日。



今日もバイトのあたし。



「いってきまーす」

「いってらっしゃい。あ、今日市川さん来るからね」

「はーい…」



シングルマザーのお母さん。



あたしが10歳のときに両親が離婚して。



すごく寂しかったけど、なんとかお父さんがいない生活にも馴染んできたところだった。



それが2か月前、お母さんが「紹介したい人がいる」と言って連れてきたのが市川さんだった。



普通の優しいサラリーマンの市川さん。



最近よくうちに来るの。



多分、そのうち再婚するつもりで、あたしがもう少し慣れるのを待ってるんだと思う。



だけどやっぱりそう簡単には慣れないし、受け入れがたい…。



実の父親とも、たまに連絡を取ったり会ったりもしてる。



あたしは市川さんじゃなくてお父さんがいいよ…。



バイトを始めたのも、市川さんとあんまり顔を合わせたくないからっていうのもある。



お母さんはそんなあたしへの後ろめたさからか、あたしが家を空けることが多くてもあまり何も言わない。



あーあ…。



今日も来るのか…。



バイトは夕方には終わっちゃうし…。



「おつかれさまでした~」



家に帰りたくないなあ…。



あたしは帰り道をゆっくり歩く。



もうちょっと外で時間つぶそう…。



家の近くにある公園に入った。



夕日の差し込む公園で、ブランコをゆっくりと漕ぐ。



暇だなあ…。



そのとき、公園に誰か入ってきた。



うそ…。



風里先輩だ…。



先輩は、ベンチに座って、ハア…とため息をつきながらスマホを見てる。



それから、あたしの方を不思議そうに見た。



やば!



ジロジロ見過ぎた!



あたしは慌てて視線を逸らし、ブランコを全力で立ち漕ぎし始めた。



そしたら、あはは!と楽しそうに先輩が笑った…。



え、なに…?



先輩の方を見る。



先輩はあたしの方を見て楽しそうに笑ってる。



「そんな全力でブランコする人初めて見たよ」



そう言ってクスクスと笑う。



恥ずかしい~…。



あたしは立ち漕ぎをやめて縮こまる。



先輩がベンチから立ち上がって、あたしの方に近づいた。



それからあたしの隣のブランコに座る。
< 3 / 351 >

この作品をシェア

pagetop