雨はまだ降り続いている…〜秘密の契約結婚〜

6章:「本当の気持ち」

思わず咄嗟に走って逃げ出してしまったが、行く宛がない。
スマホだけしか持ってきていないため、お金を持っていないので、ホテルに泊まることもできないし、お店の中にも入れない。
もう悠翔さんの家に戻れない。あの女性と悠翔さんが一緒に暮らし始めるはず。
私にはどこにも居場所がない。そんな私は今からどこに行けばいいの?
何もできない状況に途方に暮れていた。せめて財布だけは持って家を出れば良かったと後悔している。

「奈緒…!」

私を呼ぶ声が聞こえた。この声はもしかして…。
いや、さすがに幻聴だ。追いかけてきてほしいという自分の願望が現れたのかもしれない。
幻聴まで聴こえてくるようになるなんて、私はどれだけ悠翔さんのことを好きなんだろう。
早く悠翔さんを忘れて、自分だけで歩いていけるようにならなくちゃ。
後ろを振り返らずに歩き続けようとしたら、「奈緒、待って…!」と再び声をかけられた。
さすがに幻聴ではないことに気づき、後ろを振り返ってみると悠翔さんがいた。

「どうしてここに…?」

悠翔さんが追いかけてくる理由が分からない。ってきりあの女性と一緒に居るものだとばかり思っていた。

「奈緒が誤解して逃げてしまったから、誤解を解きたくて追いかけてきたんだ」

追いかけてきてくれて嬉しかった。あの女性よりも私を優先してくれたことが…。
でも勘違いしてしまいそうになる。悠翔さんも私のことを好きなのではないかと。

「誤解ってどういうことですか?あの女性とはどんな関係なんですか?」

今まで気持ちを抑えてきた分、我慢なんてできなかった。
それにいつもなら踏み込んではならない領域に土足で踏み込むことはできないが、今なら踏み込んではならない領域に踏み込めると思った。
そのチャンスをもらえたと、私はそう捉えている。そのために悠翔さんは私を追いかけてきたのだと。

「あの女性は小百合と言って、俺の元カノだ。とっくの昔に別れているから、もう関係は終わっている」

やっぱり元カノだった。予想はしていたが、いざその言葉を聞くと、心に受けるダメージが大きい。

「そう…だったんですね……」

「奈緒、さっきも言ったが、元カノだから。もう終わった人のことは何も想っていないし、未練なんて一ミリもないよ」

悠翔さんのその言葉が聞けて、ようやく状況を理解した。
悠翔さんはこう言っていた。私が誤解していると…。

「すみません、ようやく自分が誤解していたことに気づけました…」

「それならよかった。誤解されたままだと困るから」

どうして困るのだろうか。誤解したって問題ないはずなのに…。
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