雨はまだ降り続いている…〜秘密の契約結婚〜
どうしてこうなったのか、自分でもよく分からない。
でも人は言葉にできない感情が芽生える時がある。私と小百合さんの関係はまさしくその通りの関係だと思う。
今まで抱いたことのない感情から生まれた関係だからこそ、この関係をより大事にしていきたい。

「奈緒さんとお友達になったので、悠翔の連絡先を奈緒さんの目の前でちゃんと消します。
悠翔もスマホを出して。私の連絡先を消して」

気持ちを切り替えた小百合さんは、実行力が早く、本当に私の目の前で悠翔の連絡先を削除した。
そして悠翔も小百合さんの指示に従い、スマホを取り出し、小百合さんの連絡先を削除した。

「今度は逆に奈緒さん、スマホを出してください。私と連絡先を交換しましょう」

友達になったのに、連絡先を交換しないのはおかしいので、小百合さんと連絡先を交換した。
久しぶりに友達ができた。きっと今思えば、私は友達が欲しかったのかもしれない。自分の友達欲しさに小百合さんを利用させてもらったところもある。
それぐらいの気持ちで良かったのかもしれない。お互いにその方が気が楽だから。

「奈緒さん、ありがとう。お陰で気持ちが楽になりました」

私でも誰かの役に立てたことが嬉しかった。ある意味、私の方が小百合さんに救ってもらったのかもしれない。

「いえ、こちらこそ。そう言ってもらえて光栄です」

お互いにお互いのことを感謝し合いながら、小百合さんと少しお話をしてから解散した。
解散して家に帰って悠翔から、「奈緒は本当にすごい。まさか元カノと友達になるなんて思ってもみなかった」と言われた。
私以上に悠翔の方が驚いていた。まさか元カノと友達になろうなんて、普通は誰も思わないから。

「そうかな?偽装結婚に比べたら全然マシだよ」

私がそう言うと、悠翔は笑いながら、「そうだな」と言った。
私も笑いながら、「でしょ?」と返事をした。
すると悠翔は真剣な表情になり、私に頭を下げてきた。

「奈緒、ありがとう。奈緒のお陰で、過去に一区切りつけることができたと思う」

きっと悠翔も心の中のどこかでずっと過去を引きずっていた。
だからこそ、今回のことで一区切りつけることができたんだと思う。

「こちらこそそう言ってくれてありがとう。一区切りついたのなら良かったよ」

過去は簡単には消えない。過去が自分の一部となって、自分の核を担っていく。
私はまだ過去と立ち向かっている最中なので、悠翔と小百合さんが羨ましいと思った。

「大好きな人の旦那になれたからね。過去なんて引きずっている場合じゃないよ」

愛おしい旦那さんから、こんなことを言われたら悪い気はしなくて。
私もやっと大好きな人の奥さんになれたのだと実感することができた。

「そうだね。これから二人で幸せな家庭を築き上げていこうね」

「そうだな。これから二人で築き上げていこう」

二人の明るい未来を想像しながら、ようやく訪れた穏やかな時間を堪能するのであった…。
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