まだ誰も知らない恋を始めよう
 その感覚なら、わたしにも感じ取れる。
 悪意を持っている人間特有の澱み、なんて兄みたいにうまく言葉に出来ないけれど。
 嫌な感じ、というやつで。
 普段から不満を抱えている人物と会うと、それだけで頭が痛くなったり、吐き気がする。

 あ、そう言うことか、と理解した。
 兄がロジャーに関心を持たないのは、気に掛かる要素が無いから。

 前々からロジャーがフィニアスの立場を羨んでいて、不満に思いながら、今の仕事をこなしていたのなら。
 その澱みは兄には感じ取れた、ということだ。


「3年間尻尾を掴ませないシーバスは、敵ながら天晴れな奴なんだが、それでも時々は邪悪な本性が漏れ出す。
 それに比べると、アボットは高潔とは言わないが、ずっと腹に一物抱えていそうな人物じゃないんだよな……
 実はな、最近俺の周囲で増えてきているパターンとして、責任あるポストにつきたくない、って奴等が居るんだ」

「え?」「は?」

 わたしとフィニアスがそう答えたのは、ほぼ同時だ。

 仕事で上にいきたくない人?
 外務省で働くエリートに、そんな人が居るの?
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