まだ誰も知らない恋を始めよう
「それは違うと思うな。
 君を信用してるからこそ、魔法学院に行く事も、ロジャーに会う事も止められなかったんだろ?
 信用してなかったら、もう動くなと、モーリス卿ならはっきり言うよ。
 君の将来については、次のお父上の帰国に合わせて家族で話し合おうと思ってる、と仰っていた。
 それまで、本当は魔法庁には接触させたくないけどな、って」

「…分かった、だけどそこまで考えてるなら、少しくらい言葉にしてくれてもいいのにね」

「お前が言うか、ってやつだけど、言葉足らずや思い込みで誤解するのは、俺だけで充分だから、君にはお兄さんとすれ違って欲しくないんだ。
 それとさ、これ……先に渡しておくから、受け取って」

 ロジャーに対する実感のこもった言葉で兄の心情を明かしてくれたフィニアスが、ポケットから小さなケースを取り出して、わたしに見せた。
 ちょっと待って、その箱はわたしのような馬鹿にでも分かる。
 手のひらに乗せて、パカッと開くあれ、指輪のケース!


「あのさ……ダニエルには将来を約束した人は居るの?」

 えっ、開かれた台座に鎮座した指輪をぼーっと見ていたわたしは、一瞬彼が何を言ったのか、聞き取れなかった。
 だって! 指輪だよ? 指輪!


「それに、好きな人は……居ない?」

「……す、好きな?」

 ……好きな人は、貴方ですが……とは、口が裂けても言えないわたしは頷いた。
 
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