まだ誰も知らない恋を始めよう
 握手する意味がわからなくて、もう本当にムカついてきて、わたしは彼の手を強く握った。
 すると、反対にフィンも力を入れてきた。
 それも物凄く力を入れて。


「痛い! 痛い! ちょっと! 離して!」

 たまらず、その手を振りほどけば、何故かフィンが事もあろうに、この場で!
 中庭の、ちらほら居る人前で、わたしに抱きついた!


「すごい! ダニエルになら直接触れる事も出来る!
 信じられない! ねぇ、君は何者?」

 はぁぁ? 何者、って、しがない子爵家の娘だよ!
 信じられないのは、わたしの方だよ!と心の中でのみ叫んで。
 身をくねらせて、突き飛ばすようにして彼の抱擁から逃げた。
 わたしこそ、嬉しそうにしているフィンに、あんた何者? と聞きたい。

 あんたのガールズ達は、いきなり抱きつかれても、優しく受け止めるのだろうけど、わたしは普通の感覚を持っている。
 ほぼ初対面の異性に人前で抱きつかれるなんて、あり得ない。 


「もういいです! それでは、ごきげんよう!」

 こんな奴、ほっとこう。
 わたしが追いかけて声を掛けたから、自分のファンとでも勘違いしたんだ。
 それにしたって、いきなりの同意無しハグはファンサービスが過剰だ。
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