まだ誰も知らない恋を始めよう

31 少しの寂しさと諦めとわたし

 ディナ、と言うのはジェリーの事?

 その金色の瞳の少年を、ベッキーさんがわたしから目を離して、睨んだ。
 

「オル、まだ呼んでないよ」

「スティーブンスのおっちゃんが、ディナの知り合いが来てるって飛んできてさ。
 クレモンの兄さんも、早く行け行け言って教室から追い出された」

「クレモンの兄さんじゃない、クレモン教官と呼べ」
 

 門番さんをおっちゃん、教官を兄さん、と呼び。
 フィニアスを面白いもの扱いして、初対面のわたしにお姉さんと呼び掛けた、妙に馴れ馴れしい感じのこの少年が現れてから、この場の空気が変わった。


 門番のスティーブンスさんが授業中の彼に、ジェリーの知人のわたしが来たと知らせて、それを聞いた教官が早く行け、って?

 何となくだけれど、さっき言われた
「この学院の平和は……」の意味が読めてきた。

 顔立ちは物凄く整っていても、どこか大人を舐めてるような笑いを浮かべた、この得体の知れない10代前半の彼の何が、そうさせているのかも分からないけれど。
 彼にとってはジェリーは特別な人で、魔法学院関係者全員がその事を知ってて、何よりも優先させてるんだ。


 授業を抜け出してきたと笑いながらに説明して、彼はベッキーさんの右隣の椅子に当然のように座り、わたしを真正面から見た。


< 121 / 289 >

この作品をシェア

pagetop